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【一会】『双亡亭壊すべし 2』……〈双亡亭〉突入。そこで待つのは絶望か

      2016/12/29

双亡亭壊すべし 2 (少年サンデーコミックス)

 東京都内に建つ謎の建築物〈双亡亭〉をめぐり、絵本作家志望の青年、〈双亡亭〉に立ち入ってしまった少年、その姉で退魔の力を有する〈刀巫覡(かたなふげき)〉の少女、そして、時の彼方から還ってきた少年、といった人物たちによって紡がれる“おばけ屋敷”ホラー漫画『双亡亭壊すべし』。もう先々月の話になってしまいましたが、2巻が10月下旬に発刊になりました。遅ればせながら、語ってみたいと思います。

 〈双亡亭〉の隣のアパートで暮らす、美大を出たばかりの青年・凧葉務(たこは・つとむ)。〈双亡亭〉敷地内の別宅に引っ越してきた少年・立木緑朗(たちき・ろくろう)と知り合った彼は、緑朗に軽い気持ちで〈双亡亭〉内を探検してはと勧めます。しかし、それが2人を〈双亡亭〉の呪縛に囚われることに繋がったのでした。
 ほぼ時を同じくして、〈双亡亭〉に因縁のある首相の斯波(しば)、防衛相の桐生による〈双亡亭〉破壊プロジェクトが発動します。弟の緑朗を案じて九州から駆けつけた刀巫覡の柘植紅(つげ・くれない)はこれに呼応、〈双亡亭〉破壊の特別工作班に参加することに。
 一方、〈双亡亭〉内での経験により心身に変調をきたした緑朗と、双亡亭が爆撃された夜、45年前の飛行機事故から当時の姿のまま生還し、超常的な力を有する凧葉青一(たこは・せいいち)の2人もまた、〈双亡亭〉破壊への執念が一致。政府の作戦とは別に〈双亡亭〉破壊のために現地を目指すのでした。

 ――と、ここまでが1巻の要約となりましょうか。今巻はその続き、〈双亡亭〉破壊に挑む紅たちに対する環境省「特殊災害対策室」による説明会の場面から始まります。
 その場には、紅と務以外にも、解体業者を中心に全国から腕に覚えのある人々が集まっているようですが、過去に〈双亡亭〉に入った人々の映像を見て、その大半が辞退した模様。映像に映っていた光景の異常さを考えれば当然でしょう。画家志望だった富豪・坂巻泥土(さかまき・でいど)なる男が建てた〈双亡亭〉は単なる建築物ではなく、何らかのオカルティックな力を帯びているのでしょうから。結局、その場に残ったのは紅と務、そして幾人かの“その筋”では著名な人々でした。
 一方、務が気にするのは、「〈双亡亭〉を壊す」と云って姿を消してしまった緑朗と青一のこと。コンビニで少しばかりの食料を手に入れて、夜の学校で夜明かしする2人はいじましい限りです。
 しかし、明くる日中、2人を異質と感じて青一を攻撃する子ども達に怒る緑朗の表情は、やはりもはや普通の少年ではないように見えます。身体を螺旋状に変化させて戦う青一は明らかに異常ですが、〈双亡亭〉に入った緑朗もまた、心身ともに特殊な存在に変質しているようです。
 駆けつけた「特殊災害対策室」の森田と宿木に連れられ、もはや普通ではない2人は学校を去ります。向かう先は、〈双亡亭〉破壊のリーダー、斯波総理のもとです。

 続いて時間が少し戻り、緑朗たちが学校で夜明かししている頃の務たちの様子が描かれます。「不祓案件(はらえずあんけん)」として名高い〈双亡亭〉破壊作戦のために残ったのは、やはり超常現象のプロ達でした。彼らを列挙しますと、修験者(紅が云うにはその外道)の朽目洋二(くちめ・ようじ)、超自然現象研究者のトラヴィス・アウグストス博士とその研究チーム、現代最高の感知能力を保持する心霊能力者の鬼離田(きりた)三姉妹、超攻撃的な超能力を有する車椅子の老女ジョセフィーン・マーグと人形〈パイロメアリー〉の4者。それぞれ信奉するものが違うこともあり、あまり連携を望めそうもありませんが…。ともあれ、この専門家たちと「特殊災害対策室」の精鋭部隊がチームを組み、〈双亡亭〉内部へと赴くこととなります。
 緑朗が辿り着く前に自分の手で〈双亡亭〉を祓おうとする紅に対し、物語の語り手でもある務はただの駆け出しの絵描きで、〈双亡亭〉に入ったところで活躍できそうもありません。それに、やはり恐ろしいという気持ちもあります。しかし、彼には自分が緑朗を〈双亡亭〉に入るようそそのかしてしまったことに対する負い目があります。
 いきがかり上、務と紅はひとつ屋根の下で(というか同じアパートの部屋の中で)一夜を過ごすことになりましたが、彼女にそのことは云えずじまい。しかし、けっきょく彼が紅と共に〈双亡亭〉の門をくぐったのは、その責任感からだけではないでしょう。緑朗と紅という、互いに思い合う姉弟を放っておけないという気持ちも大きかったと思います。紅は超有能な巫女ではありますが、やはり年相応の不安定さを持ってもいますし、彼の存在が支えになることは確かでしょう。
 〈双亡亭〉の不穏な空気に不安になる紅の肩を「がし」と支える務の手という構図は、作者の前々作『からくりサーカス』(100夜100漫第27夜)の、しろがねと鳴海、あるいはアンジェリーナと正二の関係を彷彿とさせます。鳴海も正二も腕っ節の強い人物でしたが、そうした強さは希薄な務がどう紅を支えていくのか、“戦う力ではない強さ”が示されるのではと注目したいところです。重要な情報を持っている(稀少な泥土の著書を読んだことがある)というのも、鍵になるでしょうか。

 さて、紅と務を含んだ結構な人数が突入した〈双亡亭〉内ですが、まずは“奇妙な館”という印象です。作中でも務が云っていますが、美術家である赤瀬川原平氏が『超芸術トマソン』で言及している“トマソン”の集大成といったところでしょうか。
 ちなみに、外部からの攻撃はことごとく無効な〈双亡亭〉ですが、内部からは効果があるということで、破壊作戦の目的とは内部からの爆薬での発破とのこと。紅たちの投入は、その爆破部隊の護衛ということのようですね。
 奥行き50センチ以下の座敷、行き止まりの階段、林立する帽子掛け、無意味なのぞき穴など、奇妙なものが沢山ある〈双亡亭〉ですが、もちろんそれだけで終わりではありません。何も起こらない安堵から能力者たちが諍いを始めたその時、ついに異常現象が発生します。
 まずは、過去に立ち入った者に何かが憑依した生き霊ゾンビとでも云えそうな者が大量に押し寄せてきます。が、これはまだ序の口。それぞれの力でこれを撃退した能力者たちは、その中で〈双亡亭〉について何か掴んだようですが、それを口にするより先に、〈双亡亭〉は本格的にその牙を剥きます。
 辺りが暗転し、場面は緑朗たちが到着した首相官邸へ。やや手荒な初対面となりましたが、首相の斯波と防衛相の桐生は、緑朗たちに〈双亡亭〉にまつわる情報を教えてくれます。1つは、〈双亡亭〉に入り「奴ら」に取り憑かれた者は暗闇で異常に目が利くということ。そしてもう1つは、亭内に現れる自分の絵――「肖像画」を見た者は、“おしまい”だということ。
 まさに同刻、紅たちは見てしまいました。自分が描かれた「肖像画」を。そして〈双亡亭〉内には幾つもの「肖像画」だけが残り――といったところで、今巻は幕となります。

 絶望感しかありませんが、ともあれ魔の屋敷〈双亡亭〉の本領が発揮される第3巻は、年明けすぐ1月中旬に発刊予定とのこと(今巻について書くのが遅くなりましたので、それほど待たずに済みそうです)。「肖像画」の描写の無い務はどうなっているのか、ばっちり描写されている紅は…と気を揉みつつ年越し、次巻を戦きつつも楽しみに待ちます。

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