【一会】『Pumpkin Scissors 20』……蜈蚣のように殺し、厳として屠る | 漫画のレビュー&随想 | 100夜100漫

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【一会】『Pumpkin Scissors 20』……蜈蚣のように殺し、厳として屠る

      2016/04/24

Pumpkin Scissors(20) (KCデラックス 月刊少年マガジン)

 “帝国”とフロスト共和国の戦争によって生じた「戦災」への対処を旨とする帝国陸軍情報部第3課、通称「パンプキン・シザーズ」。“お祭り部隊”と揶揄される課にあって、真の戦災復興と正義とは何かを問い続ける貴族出身のアリス・L・マルヴィン少尉と、特殊部隊群「不可視の9番(インヴィジブル・ナイン)」所属という過去と自らの殺人衝動に慄くランデル・オーランド伍長を主人公に据えつつ、未だ残る貴族と平民の間の軋轢、周辺諸国との政治的関係、文明が進展していくことへの期待と不安といった要素も盛り込んだ「重量級ドラマ」なこの漫画の20巻が、先月17日に刊行されました。遅くなりましたが、読みましたので何がしか述べたいと思います。

 今巻も描かれるのは、前巻までに引き続き、“帝国”で開催された西方諸国連盟(ネヴュロ)合同会議の会期中に勃発した、“抗・帝国軍(アンチ・アレス)”によるテロとの戦い(というより、もはや大規模市街戦)です。情報部上層の面々の機転、現場の個々人の奮闘により、“帝国”は大ピンチからはどうにか脱しつつある様子ではありますが、アンチ・アレスの高機動装甲車“蠍の類型(グラフィアス)”はまだ5輌が健在。これに対してオーランド伍長は相変わらず単身で血みどろの戦闘を続け、陸軍情報部は切り札「ジャガーノート」を投入して対抗を試みます。

 オーランド伍長の戦いは、先にも書いた通り、血みどろです。そもそも彼が所属していた901ATT(Anti Tank Trooper[対戦車猟兵])の別称は「命を無視された兵隊(ゲシュペンスト・イェーガー)」。単身で(それも決して重装とは云えない装備で)戦車と近接戦闘することを想定した、インヴィジブル・ナインの中でもひときわ狂気を孕んだ部隊でした。
 対戦車戦という字面だけで云えば、“グラフィアス”は理に適った相手ということになりますが、もちろんまともな戦い(厳密に何が“まともな戦い”なのかと問われると困りますが)になろうはずもありません。18巻でも、以前戦ったインヴィジブル・ナインの一角908HTTの火焔放射兵装(フレイム・スロウワー)を用い、自らも重度の火傷を負う紅蓮の戦いを繰り広げて1輌撃破した伍長でしたが、今巻の戦いもまた凄惨です。
 伍長が携えてきたのは、初登場となる901ATT時代の兵装「センティピード」。大百足(おおむかで)の意味を有する――どうにも類例が出てきませんが――幾つものワイヤー付きアンカーを射出して敵戦車に打ち込み、自身との距離を固定、零距離射撃を行うための肉薄行動を補助する、という兵装です。
 まったくもって正気を疑う思想に基づいた兵装ですが、駆使するオーランド伍長の戦いぶりがそれ以上にどす黒く、設計思想の狂気など軽く吹き飛ぶ惨烈さを見せつけます。敵兵の、“鬼火を持ち歩くジャック・オー・ランタン”、あるいは自分の傷にも相手の心情にも何の注意も払わない“昆虫”といった表現も頷けるかと。
 自らの負傷を顧みず戦う伍長には、“医術のカウプラン”ことミュゼとその助手が遂次治療を施しています。戦い続ける伍長の姿は、これまで彼に対し冷笑的だったミュゼの心境にも語りかけるところがあるようで、彼女のこれからにも着目したいところです。

 そんな伍長の戦いと共に描かれるのが、「ジャガーノート」を起動した情報部の戦いです。アリスの義兄に当たるミハエル・ブランバルド大佐が率いる第8戦車連隊が実働部隊として出動しているこの戦い、「ジャガーノート」が何なのかはここでは明かさずにおきますが、この戦いもまた鬼気迫っているのは確かでしょう。
 硬式飛行船も投入した情報部とアンチ・アレスの情報戦も、飛行船を撃墜せんとアンチ・アレスの銃隊が持ち出した901ATT兵装、口径漸減試験銃“アインシュス・ゲヴェーア(1発しか撃てない銃――恐ろしいことに、この銃には史実においてモデルが存在するようです→マウザー M1918 – Wikipediaゲルリッヒ砲 – Wikipedia)”の連続射撃も読み応えがありますが、それらよりも自分がインパクトを感じたのはミハエルの独白でした。
 これまで、どちらかというとアリスの姉ソリスとのちょっと変態ちっくな夫婦生活のためにコミカルな印象の強かった彼ですが、武門に生まれ、現代的な“戦争”(古来の貴族的な“戦”ではなく)の中で生きてきたことが伺えるシーンだと思います。アンチ・アレスの境遇を慮りながらも「清廉潔白なる“鉄と火薬の力”で」殺してやると云う彼こそは、英雄として戦うアリス、幽霊として戦うオーランド伍長の2人と隔たり、卑怯喧嘩戦法で戦うオレルドともまた違う、人間として“戦争する責任”を真っ向から引き受ける強靭さと悲壮さを滲ませた人物ではないでしょうか。

 そんなミハエルにすら全車緊急停止を命じさせる、不合理なまでの不吉さを纏わせ、戦場に舞い戻ったオーランド伍長。そこに響き渡る陸軍情報部第3課としてのアリスの声…といったところで、今巻は閉幕です。
 残るグラフィアスはあと数輌。実際のところ何輌なのか、既刊を読み返して検証しつつ、およそ1年後と思われる次巻を待ちたいと思います。

 - 一画一会, 随意散漫 , , , ,

 

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