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【一会】『Pumpkin Scissors 18』……絶望に瀕しながらも動く人間と、死人を造る死人

      2018/07/21

Pumpkin Scissors(18) (KCデラックス)

 ここでは初めて言及する『Pumpkin Scissorsパンプキン・シザーズ)』。まずは軽く概要を。
 長らく戦争を続けていた“帝国”と“共和国”。「薄氷の条約」とも呼ばれる停戦条約が結ばれ、いちおうの戦争終結を見てから3年が経過し、帝国領内はそこそこ復興してきました。が、いまだに国内の混乱は収まらず、難民や兵士の夜盗化、地方貴族の横暴といった「戦災」は続行中。そこで帝国陸軍は戦災復興の専門部隊として陸軍情報部第3課、通称「パンプキン・シザーズ」を設置し、あらゆる「戦災」への対応を任務としました。
 とはいえ、実戦部隊ではない情報部のさらに末端ということで周囲は“お気楽陸情3課”呼ばわり。それでも、貴族出の凛然系乙女にして実働部隊隊長アリス・L・マルヴィン少尉と、彼女に拾われた、元特殊部隊での凄惨な過去を持ちつつ普段は心優しい大男ランデル・オーランド伍長を筆頭に、オレルド&マーチスの准尉コンビ、どう見てもまだ少女なステッキン曹長らの活躍で、多くの人為的戦災から人々を救ってきました。
 当初こそ単発的な戦災事案に対応する物語でしたが、やがて見えてきた大きな陰謀。“帝国”で開催された西方諸国連盟(ネヴュロ)合同会議の場で帝国に恨みをもつ武装集団“抗・帝国軍(アンチ・アレス)”によるテロ事件が勃発します。燃える帝都で、帝国陸軍の各部署は、そして陸情3課の面々は秩序を取り戻せるのか――?

 と、そんな状況で始まったのが、今回の18巻。相変わらず帝国へのテロをめぐる政治的あるいは社会学的な考察が重厚な印象を醸し出しています。正直なところ、これほど説明的だと敬遠する読者も出てくるんじゃないかと思いますが、自分としては面白く読みました。同時に差し挟まれるオレルド&マーチス、ステッキンたちの脱力な一幕も、仲間への理解の深さ、絶望的な状況下でも軽口を叩きながら行動する強さを感じられていい感じですね。
 第一次世界大戦後のドイツ(だと思う)をモチーフとしながら、いまだ旧態依然とした貴族意識が幅を利かせているという帝国が舞台のために、「カウプランの特許(パテント)」や電信技術に衝撃を受ける形で“科学化していく各国”への戦慄が描かれ、同時に銃VS剣とか装甲車VS騎馬という戦いを通して人間的な“誇り”を際立たせるというのは、なんともアンビバレントですが、納得してしまうのは語り口の巧みさ故でしょうか。

 “抗・帝国軍(アンチ・アレス)”が持ち込んだ複数の装甲車が跋扈していて、事態の打開にはまだまだかかりそう。そんな今巻の見せ場はやはり、オーランドと装甲車との“八番勝負”第一戦だと思います。一度敗れて負傷しており、他が描かれていて出番も少なかった伍長ですが、今回は元「不可視の9番(インビジブル・ナイン)」901ATTの本領発揮とばかりにドス黒い戦いを見せつけてくれます。
 “悪魔の力を持った主人公”というモチーフは、恐らく永井豪『デビルマン』(もっと遡れば神に叛逆したルシフェル?)以降再三繰り返されてきたものだと思いますが、己の肉体的損傷も意に介さず、火炎放射器を振り回し装甲車を追い込んでいく様は既にホラー。死人のような無表情で装甲車に乗った敵を死人と化していく様に、読者のアドレナリンが大量分泌されそうです。

 前巻の刊行からちょうど1年、西方諸国連盟(ネヴュロ)合同会議編が始まってから現実世界では実に4年以上が経過しているこの漫画。それでも、陸情3課の軽妙さと政治劇の重厚さ、貴族意識と科学革命、人間の気高さと陰惨さといった両極端な諸要素を満載した物語の行方が楽しみです。
 今巻と同時発売のサイドストーリー集『Pumpkin Scissors:Power Snips』の1巻も併せて読んで世界観を広げつつ、次巻を待ちます。

 - 一画一会, 随意散漫 , ,

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