【一会】『乙嫁語り 6』……戦う男と幕を引く婆 | 漫画のレビュー&随想 | 100夜100漫

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【一会】『乙嫁語り 6』……戦う男と幕を引く婆

      2014/08/03

乙嫁語り 6巻 (ビームコミックス)

 もう発売から1週間が経ってしまったけど、読んだので。

 以下、ストーリー説明(ネタバレのため反転)。
 だんだんと成長していくカルルクは、妻のアミルがいつまでも子ども扱いするのが気に入らない。アミルはカルルクを心配するからこそ、新しい服にもお守りの刺繍を施そうとするのに。家族の間で刺繍をするかしないか議論されるが、カルルクの祖母バルキルシュの鶴の一声で本人たちの話し合いで決めることになる。で、結局はカルルクに説得されて刺繍はしないことになる。日に日に大きくなるカルルクにアミルは今更ながらときめきの予感を感じるのだった。

 一方、アミルの実家であるハルガル一族は焦っていた。有力者であるヌマジ一族との婚姻関係を保つため、アミルとカルルクの結婚を一方的に破談にして、アミルをヌマジの嫁にしようとカルルクの街を襲撃までしたものの、街の人々の抵抗にあい、失敗したのだ。
 族長のベルクワトは遠い親戚にあたるバダン一族と共闘関係を結び、再びアミルたちの街を襲撃しようと企てる。今度はアミルを連れ戻すのではなく、街の人々を皆殺しにし、街そのものを略奪するために。
 しかし、族長の長男アゼルはバダンに不穏なものを嗅ぎ取る。ロシアの近代兵器を大量に持ちながら、それをハルガルにほとんど無償で貸し与え、見返りもほとんど要求しないバダンには何か裏があると感じたのだ。従兄弟のジョルクとバイマトも同意見で、3人は独自の判断で動くことを決める。

 襲撃の直前、ジョルクは街に潜入し、アミルに襲撃計画のあらましを知らせ、逃げるように進める。しかしアミルは、カルルクが戦うのならば妻としてこれに従い、街に残ると応える。
 直後、街はハルガルの襲撃を受ける。人々は応戦するものの、大砲や銃といった近代兵器に馬の機動力を組み合わせた戦術に押し込められる。街は陥落寸前と思われたが、その時、ハルガルもろとも巻き込んでの銃砲撃が降り注ぐ。バダンが裏切ったのだ。
 いち早く事態を把握したアゼルは、単身でバダンに切り込み、バダンの長オル=タムスを討つ。バダンの陣から退いてきたアゼルが見たのは、父ベルクワトと戦うカルルク、そしてそれを助けるアミルの姿だった。実の父を追いつめ、その喉に刃を押し当てるアミル。カルルクはアゼルを敵視して戦いを挑もうとするが、アゼルはバダンの砲撃から2人を庇う。
 アゼル、ジョルク、バイマト、そしてアミルの援護によってバダンは壊滅したが、同時に街の人々はアゼルたちを敵とみて拘束しようとする。その時、この地方を支配する藩王より使わされた治安部隊が到着、事態の収拾を図り、アゼルたちは取り調べを受けることとなる。落着を待ったように、カルルクは自らの怪我に気付き倒れる。
 瀕死ながらも落ち延びたベルクワトは復讐に燃えていた。が、背後からの矢が止めをさす。バルキルシュは渋面にため息をつき、立ち去る。
 カルルクは無事に回復し、アミルはバルキルシュから父の死を知らされる。アゼルの手当てをしながらも、アミルの涙は止まることはなかった。

 これまで小競り合いや狩りはあったけれど、本格的な戦は初めての描写。『エマ』から通しても、作者にとっても初めての作画だったのではないかな。
 前巻までと変わらず、丁寧な作画で中央アジアの片隅で暮らす民族の文化風俗を、それでもさりげなく描く手腕は、もはや云い尽くされた感があります。
 が、今巻はアミルの実兄アゼルを主役級に据えたために、中央アジア遊牧民族の戦を臨場感山盛りで味わうことが可能に。こんなの小説ですらみたことないです。
 弓矢や剣を当然のように馬上で操る男たちは、まさに「馬の背で育つ」という遊牧民の言葉通りの自由自在さ。加えて“屈辱を受けた相手は必ず殺す”とばかりの野蛮さも、奪わねば自らが死ぬという摂理の故でしょうか。自分は唐突に『グラップラー刃牙』に出てきた「誇り高きジギール族」を思い出しました。
 裏切ったバダン陣営に対し、さして思い悩むこともなく単身で突っ込んで首魁を弓矢で狙撃するあたり、アゼルもやっぱりそんな烈しさを持ち合わせていて、そういう面も含めて次期族長なのだろうと納得です。
 背が伸びたカルルクも妻を守るため一生懸命に戦おうとしますが、まだアミルに助けられっぱなし(というかアミルは弓矢や剣だけでなく巻き布を即席スリングにして投石とか、戦闘スキルが半端じゃないですね)。。そんなカルルクに対し、アゼルがぶっきらぼうながら、しっかりと「婿殿」と呼んでいる辺りに男が男を認めることの清々しさを感じます。
 それでも、今巻もっともクールなのは、たぶんカルルクの祖母バルキルシュ。以前も山羊を巧みに操って崖に登るなどただ者でない感を出していましたが、今回は汚れ役に徹して今後の禍根の芽を摘んだ形。老いたる者の仕事と云わんばかりのハードボイルドさに脱帽です。

 次巻はまたフィールドワーカーのスミスさんの話だそうですが、冗談抜きで貴重な題材を扱っている作品だけに、じわじわと長く楽しめるといいな、と思います。

 

 - 一画一会, 随意散漫 , ,

 

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