【一会】『いぬやしき 8』……意識不在の決戦 | 漫画のレビュー&随想 | 100夜100漫

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【一会】『いぬやしき 8』……意識不在の決戦

      2017/05/19

いぬやしき(8) (イブニングKC)

 普通の人間だった初老男性と男子高校生が、異星人が起こしたアクシデントによって高性能のアンドロイド化。一方は人を救い、一方は人を殺すという両極に振れた彼らの対比と対決を描く『いぬやしき』の8巻が、1月に刊行されました。色々あって4か月も経ってしまいましたが、その概要と感想を書き留めたいと思います。

 旅客機を外から強制的に操作して墜落させるという獅子神皓(ししがみ・ひろ)の暴挙により、甚大な被害が出続けている東京。さらに、まだ物語の中心にはなっていませんが宇宙からは隕石も飛来してこようかという中、犬屋敷壱郎(いぬやしき・いちろう)と皓の激突が続きます。
 やはり戦闘という面では、やや皓が優勢です。若さと、それ故の“SF慣れ(以前も少し書きましたが、“アンドロイドとなった自身を使いこなせるだけの想像力”とでも換言できるでしょうか)”と、何より人を虐殺した経験の豊富さによるものでしょう。
 しかし、壱郎も負けじと反撃します。人を救うことで自分の生を実感する彼としては、何がなんでも皓を止めなければなりません。拳の応酬は銃撃戦となり、そしてレーザーっぽい兵器を駆使した空中戦へと移り変わっていきます。

 もちろん皓は油断できない相手ですが、壱郎にはもう1つ気がかりが。それは娘・麻理(まり)の助けを求める声です。彼女は燃える都庁に閉じ込められているのでした。
 皓の旧友で今は壱郎をフォローしてくれている安堂君も麻理救出に動いてくれますが、既に東京は大きな被害を受けており、119番も繋がらない様子。壱郎は、半ば皓との戦いを放棄するようにして麻理のもとへと向かいます。
 家族が冷たく、それもあって他人を救うことによる「生きてる感じ」を求めてきた壱郎ですが、それでも家族に危険が迫っている時には、何をおいてもこれを救おうとします。被害が及ぶ人数を比較すれば、まず皓を倒すべきではありますが、そうして家族を救えず多くの他人を救ったところで、彼は「生きてる感じ」を味わえるでしょうか。そう考えると、不合理に見える彼の行動も納得できる気がします。
 その昔、テレビ版『新世紀エヴァンゲリオン』で「命の選択を」というエピソードがありました(第拾八話)。話の内容的には少しニュアンスが違うのですが、“誰を優先して助けるか”という文字通り「命の選択」をしなければならない状況で、壱郎がとった選択は、とても人間らしいと思います。

 とはいえ、皓も簡単に逃がしてくれるというわけでもなく。戦いに決着を付けなければ、壱郎は麻理を助けに行けそうもありません。
 空中で揉み合う両者。渾身の頭突きにレーザー斉射と激しい戦いが続きますが、その激しさのあまり、途中から両者の意識がないようにも見えます。意識を喪失したまま、戦闘システムとして自動化された両者の戦いは続くのですが、地上に近い高度で繰り広げられているため、東京のビル群の被害は更に拡大してもいきます。
 衛星軌道上まで及んだ戦いは、恐らくは両者無意識のまま、かろうじて壱郎に軍配が挙がったようです。壱郎らしからぬえげつない攻撃(これも彼自身というよりも、戦闘プログラムがやっているように見えます)により、部品を散乱させて落ちていく皓と、その様子に涙を流す少女・渡辺しおん。どこかで何かのタイミングが違っていれば、違った結末があったのでしょうか。
 とはいえ、これで皓が完全に退場、ということでもないでしょう。特に根拠はありませんが、このままでは終わらないと思います。

 ひとまず戦いは決着しました。麻理のところへ、壱郎は文字通り飛んでいきます。
 結果的に麻理は助かるのですが、瞳から命の灯が消えた彼女を発見した壱郎の絶望的な叫びと、彼女との思い出が交錯する数ページが圧巻です。妻(麻理にとっての母親)と電話で会話するものの娘のことを伝えられないまま、胸骨圧迫(心臓マッサージ)を始めるものの意識は戻らず、一度あきらめかけてまた再開する辺りの壱郎の様子に、娘へのどうしようもないまでの愛情を感じて、正直なところ皓との戦いよりも、自分の心には響きました。
 娘を救えば、再び彼は他人も救いに行きます。麻理と一緒に居た友人の奈緒も、他の大勢の人も助けることができました。まず愛娘を救い、それから多くの他人を救った壱郎さんの「命の選択」は、結果的には正解だったと云えそうです。

 惨事の元凶を止めたとはいえ、まだまだ状況は危機的なまま。巻末の次巻予告にある「今この時のため、僕は機械になった」という言葉からも、更なる非常事態が予想されます。
 次巻9巻は、既に予告が出ています通り今月23日刊行予定。あと暫しの間を、楽しみに待ちます。

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