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【一会】『ドリフターズ 5』……“天下分け目”、再演か

      2016/06/27

ドリフターズ(5) (ヤングキングコミックス)

 古代から第二次大戦まで、数多の英雄がファンタジー世界に集い、2つの陣営に分かれて戦う史実考証重視系浪漫バトル漫画『ドリフターズ』。戦いだけでなく、それに付随してファンタジー世界に文明上の革新がもたらされていく過程がまた見どころの漫画です。新刊5巻が出ましたので、刊行から3週間ばかり経ってしまいましたが書き留めようと思います。
 ちなみに今巻にはアニメDVDが付いた特装版があります。DVDは今秋から放映予定のTVアニメの1話・2話を編集したもののようですが、なかなか引き込まれて観ました。

 死の寸前、紫(むらさき)なる欧米の役人風の男によって(?)ファンタジックな異世界に転移させられた島津豊久(しまづ・とよひさ)が出会ったのは、同じような経緯を辿った織田信長(おだ・のぶなが)と那須与一(なすの・よいち)。ここでは「漂流者/漂着者(ドリフターズ)」と呼ばれる彼らは、虐げられるエルフたちに加勢したことを切っ掛けに、疲弊した大国オルテを乗っ取らんとします。それは、国盗りを渇望する信長の野望ゆえでもありますが、ある強大な敵からこの世界の人々を守ろうという考えからでもありました。
 敵の名は黒王(こくおう)。紫と対立する、見た目は少女風ながら底知れぬ存在EASYを後ろ盾とし、「漂着者」とは似て非なる破滅を経験した英雄たち「廃棄物(エンズ)」を率いる黒王は、オルテが迫害していたゴブリンやコボルトといったモンスターたちすら同胞として人を滅ぼさんとしています。
 エルフを開放した豊久たちは、「漂流者」を監視・支援する十月機関を率いる安倍清明(あべの・はるあきら/せいめい)や、オルテ建国時からその中枢で発言力を持ってきたサン・ジェルミ伯といった「漂流者」たちとも呼応。ドワーフを開放したことで鉄砲の量産を可能にし、オルテの首都ヴェルリナでの「廃棄物」土方歳三(ひじかた・としぞう)率いる一団との市街戦を制したことで、どうやらオルテの政権奪取が成った――という辺りまでが前巻のダイジェストと云えるでしょう。

 ちょうど現実世界の中国と同じような地理的条件にあるオルテですが、その現状を確認してみると、北からは黒王の軍勢、東から南は敵対するグ=ビンネン商業ギルド連合がにらみを利かせる海、西は西方諸国と戦争中という全方位戦闘状態。この状況で「廃棄物」にモンスターの混成という黒王軍を迎え撃つには余りにも国力が低下しています。
 しかも黒王はモンスターたちを文明化することで武装や戦術を洗練させ、さらに食料は増やせるし兵の怪我も癒してしまうという反則ぶり。参謀格の信長がまず考えるのは、速やかに国力を回復させつつ、北以外の戦闘を終結あるいは凍結させること、ついでに自分たちの指揮下になるべく多くの兵を収めること、というところでしょうか。表舞台はサン・ジェルミにお願いした体ではありますが、最小限の労力で最大限の成果を現出したと云えないでしょうか。グ=ビンネンの大番頭・シャイロック8世とのひりつくような交渉は、サン・ジェルミの面目躍如といったところですが、交渉成立の直後にくねくねと2丁目っぽい夢を語ったりしているのは、さすがにストレスが強かったということでしょうか。
 それにしても、黒王と清明の対話では、黒王の云うことも一理あるように思われます。文明の発展がより大きな殺傷力を生じさせてきたという説は、現実の世界史を考えれば概ね間違いではないでしょう。
 ただ、だからといって「無限永久に続く暗黒時代」を目指すという彼の考え方は受け入れがたいものがあります。こうした「進化の先には破滅がある、だから自ら足を止める」という考えは、もう10年近い昔のアニメになりますが『天元突破グレンラガン』でも提示されていたかと思います。
 今は晴明も単に「人間をなめるなよ」と応じただけですが、この漫画ではどういう答えを出すのか、以後その点も注視したいと思います。コレトーこと明智(惟任)光秀や、義経、アナスタシアにラスプーチンと、まだ手の内を見せていない廃棄物たちもいますし、まだ底の見えない黒王軍との戦いは激戦必至、でしょう。

 一方、オルテ北方の山岳地帯で、「空神様」として犬族や猫族を従えている漂流者、太平洋戦争における撃墜王・菅野直(かんの なおし)ですが、グ=ビンネンに居る山口多門からの書簡を受けて彼との合流を果たします。たった2人ですが、空母と戦闘機、提督とパイロットが揃ったことで「二航戦」の復活を宣言するくだりは、某艦娘蒐集ゲームの提督にとっては、ちょっと嬉しい場面ではないでしょうか(密かに自分もそうです)。
 ついでに菅野についてきたスキピオが、山口に自分が生きた時代より後の歴史について教えて欲しいと申し出る一幕も。要所要所で信長に的確な助言をする“木苺じいちゃん”ことハンニバルもそうですが、古代の智将が近代兵器の特性を学ぶとどういう戦術が出てくるのか、気になるところですね。

 直接対決が近づく中、最初の頃に豊久たちがねぐらにしていた廃城では、戦いに備えて物資の増産がフル回転。元はエルフ居留地の税務計算官だったという経緯上、兵站局長のようになっているミルズさんの気苦労はなかなか絶えなさそうではありますが。
 信長の云った「合戦そのものはそれまで積んだ事の帰結」というのは、この漫画の名台詞の1つですが、ミルズ達はまさにその積み上げを行う重要なセクションを担っていると云えるでしょう。幸い、元は被支配者でオルテに相当恨みをもっているエルフ達ともまずまずの関係を築きつつあるようなので一安心でしょうか。
 しかしこの廃城、どうもかなり昔に漂流者たちが造ったもののようです。「築 織田信秀/島津家久」と刻まれた碑文が描かれていますが、これは信長と豊久の父親にあたる人物の名前ですよね。
 軽く調べてみたところ、織田信秀も島津家久も、その死については諸説あるようで、漂流者となる条件と目される「生死不明のまま消息不明となった人物」に当てはまらなくもなさそうです。彼らはどうなったのか、何を考えて城を建設したのか。その辺りも気になります。

 ついに進軍を開始した黒王軍は、世界廃滅のため、オルテに向かう途次にある集落をしらみ潰しに攻撃し、難民化させてオルテに流入させるという手をとります。難民も西方の敗残兵も流入してきてオルテの人口は急増、物資・食料が心配なことに。
 口々に「漂流者様」と助けを乞う難民たちに対し、豊久が語った言葉は野蛮で誇りに満ちていて、まさに「薩摩劇場」。英雄を待望する人々の声に応えて剣を取るのが英雄の使命ならば、人々の心を鼓舞し、共に戦う力を取り戻すのは英雄の権能と云っていいかと思います。伸るか反るかの博打ではありましたが、皆が「放っておけない」彼ならではの結果だったということでしょう。
 ひたすら真っ直ぐな豊久ですが、いかに非常時でも人間・エルフ・ドワーフの混成部隊は作らないという点では信長と同じ方針の様子。“種族の壁を超えてのタッグ”は、漫画における大決戦では花形ですが、確かに敢えて混成にする必要もないのかも。まことに現実的な判断だと思います。
 とはいえ、混成はしないというだけで、各種族の力を束ねて黒王軍と戦わねばならなりません。軍議の結果、決戦の場所はマモン間原サルサデカダン(この地名、どうも平野先生がプレイしたTRPGが元ネタのようです)に決定。街道の結地、都への阻止点ということで、豊久の口ぶりからも、これはやはり日本史上の天下分け目の戦い、関ヶ原の再来ということでしょう。

 決戦の時が迫るところで、今巻はお開き。1年半後と予想される次巻に続きます。近々九州に行ってくることになりそうなので、豊久の墓所のある日置市にも寄れたらいいな、と思い描きつつ次巻を待ちたいと思います。

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