100夜100漫

漫画の感想やレビュー、随想などをつづる夜

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【一会】『ドリフターズ 4』……“武士”は、それと認めた相手の首をしか欲しがらない

      2018/07/21

ドリフターズ  第4巻 (ヤングキング・コミックス)

 遅くなりましたが書きます。歴史上の英雄・豪傑たちがファンタジー世界で一堂に会し、地域も時代も越えて共闘あるいは対決するという、男子なら誰もが一度は妄想したことがあるだろうストーリーを、作者の前作(100夜100漫第39夜)同様の洋画チックな台詞回し&一線を超えたマッドネスで放つ本作『ドリフターズ』。4巻からになりますが、感じたことなど書いていこうと思います。北欧神話のヴァルハラをアレンジしたかのような物語世界で繰り広げられる、英雄たちの正義(…というか発想や価値観と云った方が正確?)のせめぎ合いが痛快な漫画ですが、やはり前作と同様刊行ペースがゆっくりなので、単行本で一気に読み通したいところでしょう。

 関ヶ原の戦いでの撤退戦(島津の退き口)で死を覚悟した島津豊久(しまづ・とよひさ)が突如召喚されたのは、エルフやオークといった亜人のいる異世界。そこには同じように死の間際に召喚された織田信長(おだ・のぶなが)や那須与一(なすの・よいち)が既にいて、差別や貧困に苦しむ異世界の民のため(というのは理由の半分弱で、残りの半分以上は純粋な野心から)、国盗りを始めたのが物語の発端。やがて戦いは4つの陣営からなる構図を呈してきています。
 1つ目の勢力が豊久たち「漂流/漂着者(ドリフターズ)」&その援護と監視を同時に担う安倍晴明(あべの・はるあきら)率いる十月機関(オクト)陣営。
 2つ目が亜人を統率して人類の掃滅を目論む手のひらに杭の傷痕を持つ黒王(こくおう)が率いる、豊久たちと同じように異世界からやってきた「廃棄物(エンズ)」たちの陣営。
 3つ目がかつて「漂流者」の“ちょび髭の男”が築き、結果的に多くの人を救ったものの自家中毒気味な異世界の国家オルテ帝国。
 そして4つ目が、第二次大戦における日本海軍の名提督、“多聞丸”こと「漂流者」山口多聞(やまぐち・たもん)&航空母艦“飛龍”が身を寄せている海洋疑似国家グ=ビンネン通商ギルド連合。

 今巻は、既にオルテ帝国の衰退を予期した漂流者陣営による、帝都ヴェルリナ奪取の計画開始から、同じく帝都をめぐる廃棄物陣営との市街戦の一部始終、傍観しつつ海上からオルテの動向を探るグ=ビンネン…という下りまでが描かれています。
 実際は上記以外にも多くの英雄が入り乱れて登場します。主要な人物を乱暴に列挙すると、ハンニバルにスキピオといった紀元前の戦術家、西部開拓時代の悪名高き強盗団ワイルドバンチ強盗団、大日本帝国海軍のエースパイロット菅野直(かんの・なおし)、百年戦争でフランスを救った聖女ジャンヌ・ダルクとその協力者“青髭公”ジルドレ、ロマノフ朝ロシア最後の皇女アナスタシアと怪僧ラスプーチンといったところでしょうか。

 それ以外にもサンジェルマン伯爵(この漫画とまさかのシンクロニシティ)や源義経(みなもとの・よしつね)も気にはなりますが、今巻のハイライトはやはり廃棄物側についている新撰組副長、土方歳三(ひじかた・としぞう)と豊久の対決でしょう。
 考えてみれば島津と新撰組は時代は食い違うものの薩摩と佐幕。しかも生粋の武士と農民出身という、土方にとっては二重の意味で敵愾心を燃やす相手ではあるでしょう。しかしその一方で、豊久が口にした「日本武士(ひのもとさぶらい)」という言葉は、2人の闘いをただの戦闘から一騎打ちに昇華したのではないかと思います。
 豊久がドワーフの歩兵、信長が鉄砲、与一がエルフの弓兵をそれぞれ率いるシーンに代表される、“史実とファンタジーの融合”を始めとして、この漫画の魅力は色々あるとは思います。けれど、その出発点は、案外素朴に「歴史上、相対することはなかっただろうあの人とこの人が会話したのなら、どういうことを話しただろう」というところなのかもしれません。

 数多の英雄たちが煌びやかに活躍する群像劇ですが、あとがきやカバー下は『ヘルシング』の脱力感を継承してもいるので、ある意味では一安心。そんな表も裏も織り込んで異世界の国盗りは続きます。
 次巻刊行は既刊から類推すると1年半後くらいかと。せっかくなので戦史中心に世界史を勉強し直しつつ、楽しみに待ちます。

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