【一会】『ベルセルク 38』……“白”と“光”は、似ているようで違う | 漫画のレビュー&随想 | 100夜100漫

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【一会】『ベルセルク 38』……“白”と“光”は、似ているようで違う

      2016/08/09

ベルセルク 38 (ヤングアニマルコミックス)

 現在連載中の漫画では、最高峰のダークファンタジーに数えられる『ベルセルク』の3年ぶりとなる新刊が、先月発刊されました。いくぶん中途半端ではありますが、今巻から言及したいと思います。
 長大にして未だ道半ばの物語を要約するのは困難ですが、黒い剣士ガッツと、白銀の騎士グリフィスという正反対な2人の男の関係を中心に置き、ある理由からグリフィスと、ゴッドハンドや使徒と呼ばれる“人ならぬ者”どもに復讐を誓ったガッツの、血みどろの旅路を描いた物語というのが、現状における自分なりのまとめと云えそうです。
 当初こそ独りで旅をしていたガッツですが、ひょうきん者の妖精パックを道連れにし、傭兵集団“鷹の団”時代のガッツの戦友/恋人ながら今は心を閉ざしてしまったキャスカと同行するようになったのを皮切りに、次第に他者に心を許すように。もとはガッツを異端と見做して対立したファルネーゼや、その従者セルピコ、ガッツの強さに憧れる少年イシドロ、魔女見習いの少女シールケといった仲間も増え、キャスカが安全に過ごせるというパックの故郷、エルフヘルムを目指す旅を続けています。
 片やグリフィスは、かつて率いそして壊滅させた“鷹の団”を新生させ、東方のクシャーン帝国により滅亡に瀕したミッドランド王国を救うと、まるで理想郷のようなファルコニアなる大都市を現出させるまでになりました。前振りが長くなりましたが、今巻は、このファルコニアを訪れた、元“鷹の団”団員リッケルトのエピソードがメインとなっています。

 リッケルトと云えば、ガッツの武装の幾つかを作ってくれた、旧“鷹の団”には珍しい後方支援タイプの能力を有する人物。ガッツの大剣“ドラゴンころし”を鍛えた鍛冶師ゴドーに弟子入りし、師の養女エリカと行動を共にしていましたが、世界が幻造世界へと“変貌”を遂げた後、前巻終盤でファルコニアに到着したのでした。
 さて、そんなリッケルト達から見たファルコニアの第一印象は、やはり理想郷に尽きるかと。作物が実り、堅牢な城壁が築かれ、何より適材適所というのでしょうか、人が活き活きとしています(ルカ姉が難民の世話人みたいになっているのなんか、まさに至高の人事だと思ったり)。自分はちょっと、往年の名作RPG『ロマンシング サ・ガ2』に出てくる“アバロン新市街”を思い出しました。

 しかし、リッケルトは戸惑います。これまでの経緯――とりわけグリフィスがやってきたこと――を承知の読者各位も、同感かと思います。城内を案内してくれるオーウェン将軍は「王権神授」という言葉で“鷹殿”ことグリフィスを説明していますが、死者の魂すら自在に扱えるグリフィスは、聖なるものと云い切っていいものか。綺麗なシーンなのに一抹の不気味さを感じるのは自分だけでしょうか。
 リッケルトの戸惑いは、オーウェンから案内を引き継いだロクスによって城のさらに奥、万魔殿へ連れて来られ、近衛兵団である戦魔兵を見たことによって増したことでしょう。しかし、外道と呼ばれる者にも生きる場所を与えるのが、真の意味で善き為政者というものであれば、グリフィスのやっていることは、やっぱり正しいのでしょうか。「神の様な…/悪魔の様な/偉業」とリッケルトが云っていますが、自分にも分からなくなりました。

 いたずら者のエリカと「髭じい」こと元クシャーン妖獣軍団長ダイバの、何だか毒気を抜かれる一幕や、庭園でのシャルロット王女や“鷹の巫女”ソーニャ達のティータイムなど一息つけるシーンが挿まれつつ、ついにリッケルトとグリフィスは再会します。
 グリフィスの問いに対するリッケルトの答えを、自分は予想こそしていたものの、多少の驚きをもって読みました。逡巡する彼は、もっと曖昧な返事をすると思っていたので。
 しかし、“白い鷹”と“光の鷹”の違いを語った彼の言葉で、腑に落ちた気がします。ガッツとは目指す方向も方法も異なりますが、彼もまた1人の男だということかもしれません。そういえば、旧“鷹の団”の頃と比べたら、彼もずいぶんと大人っぽくなりました。昔と今で翼の形の変わった紋章のことに触れる彼の表情は、哀しみを湛えつつも柔和で決然としていて、いい顔だと思います。

 同じ夢を視ることができない以上、リッケルトはファルコニアに留まることはできないでしょう。馬車や散水機をたちどころに修繕する彼にとって、珍しい道具が揃っているファルコニアには後ろ髪を引かれるところかもしれませんが。ただ、それ以前に、ここを出ていくとして、今では肉親に等しいエリカを置いていくのか否か、という問題があります。
 揺れるリッケルトを襲うのは、以前から随所に出没している、得体の知れない影法師のような暗殺者・夜魔ラクシャス。仮面が割れて悲しむのはちょっとキュートですが、やっぱり不気味です。実戦(特に接近戦)は不得手なリッケルト、あわやというところで、ラクシャスと同族であるバーキラカの首領・シラットたちに命を救われます。

 ラクシャスを差し向けたのはグリフィス配下の誰かなのか、それともグリフィス本人なのか。その辺りは分かりませんが、もはやリッケルトには猶予はない様子です。再び襲ってきたラクシャスとシラット達の戦いは、炎と刃が乱舞し、ダイバも妖術で参戦する熾烈なものとなりましたが、どうにかこうにかこれを切り抜け、同時に新たな旅立ちとなります。リッケルトとエリカ、それにシラットと側近2人にダイバというこの一行、戦力的にはガッツ一行に引けを取らなさそうです。
 行く先は、バーキラカの隠れ里。シラット達が初めて登場した時には思いもしませんでしたが、東方の地はリッケルトの知識と技術に新たな風を吹き込みそうでもあり、今後が気になります。
 ガッツと同様、リッケルトもグリフィスと袂を分かつこととなりましたが、実社会でも同じようなことがありそう気がします。グリフィスを若きカリスマ実業家、旧“鷹の団”をベンチャー企業と考え、ベンチャーを使い潰して新興企業ファルコニアが興った、などと考えると、何となく当てはまると思いませんか。そんな二次創作、ちょっと読んでみたく思ったりもしました。

 さて、今巻ほとんど出番の無かったガッツ達ですが、最後に少しだけ登場します。船旅を終え、エルフヘルムのあるスケリグ島に到着した一行。人魚娘イスマの母上によれば、外界とは時の流れが違うため、あまり長逗留はお勧めしないとのこと。それではキャスカを預けると困ったことになる気がしますが、ガッツは何も云いません。
 上陸を妨げる“結界”を、一行は電車ごっこか『ドラクエ』を思わせる方法で通過。その先では動く案山子(スケアクロウ)との戦いが待っていました。

 というところで今巻は終わり。巻末予告によれば2017年発売とされる39巻に続きます。
 スケアクロウというと、今度は『ウィザードリィ』を思い出しつつ(何だか今回はRPGを想起してばかり)、少しだけ垣間見えた現地の魔女らしき人々との邂逅を楽しみに、続刊を待ちたいと思います。

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