【一会】『アルテ 6』……まずは自分の場所で | 漫画のレビュー&随想 | 100夜100漫

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【一会】『アルテ 6』……まずは自分の場所で

      2017/04/14

アルテ 6 (ゼノンコミックス)

 ルネサンス末期の16世紀。その古典文化復興の中心地となったイタリアの、男社会な絵画界に、ひとり飛び込んだ貴族の娘アルテを描く絵画修行漫画『アルテ』。1月に6巻が刊行となりました。読んで思ったことを書きたいと思います。

 師匠レオのアトリエに住み込んで研鑽を積んでいたアルテですが、現在は名門貴族ファリエル家のユーリに請われる形でフィレンツェを離れ、ヴェネツィアにいます。
 ユーリに依頼された仕事は、一家の肖像画を描きつつ、家庭教師としてユーリの姪っ子であるカタリーナに礼儀作法を教えるというもの。出会った当初のカタリーナは、礼儀作法は完璧に身についているにも関わらず、家族の前ではだらしなく振る舞い、アルテには授業をさせず居眠りまでします。
 彼女の秘密の趣味を知ることを通じ、その本心を知ったアルテでしたが、同時にその不作法は、平民との“違い”ばかり追求する貴族という立場を嫌悪するが故であることを告げられ、立ち尽くすのでした。

 カタリーナの頑なな様子は、その生い立ちに原因がありそう。今巻は、ユーリによって語られるカタリーナの過去から始まります。
 既に前巻でも母親のソフィアの口から語られていましたが、男子を望むあまり娘には関心の薄い父の方針により、カタリーナは長く養育地で乳母によって育てられました。そこで親しんだ素朴な暮らしと乳母たちとの悲しい別れ、そして、久方ぶりに戻ってきた実家での両親の接し方が彼女に影を落とし、実の娘ながら「娘のフリ」をさせているようです。
 カタリーナの境遇を理解したアルテ。カタリーナが考えを改めるには、乳母ボーナの息子で兄妹のように育ったジモとの再会が必要と考え、さっそく探し始めます。
 召使いのダフネの助けも得て明らかになった、ジモの現在の居場所はムラーノ島。カタリーナは既に知っていたみたいですが、会いに行かなかったのには、これもまた悲しい理由がありました。
 どんなに家族のようであっても、貴族と平民は家族にはなれない。彼女の心は、両者の間に広がる断絶によって引き裂かれています。
 結果的にカタリーナの過去をほじくり返すこととなり、気まずくなったアルテに対し、カタリーナは自分の肖像画を描いてプレゼントしてくれることで手打ちにしよう、と提案します。「わがまま令嬢」という触れ込みで登場した彼女ですが、本当はアルテを気遣える、優しい少女だと自分は思います。

 肖像画を用意しつつ、どうすることがカタリーナの幸せなのか、アルテは考え込みます。ユーリはアルテを選んだ自分の選択を信用すると語りますが、なかなか答えは見えません。
 考え続けるアルテですが、ソフィアの肖像画を描きに行った折、マルタがカタリーナについて話しているのを聞いて、娘のことを少しも考えていない口ぶりに、異論を唱えます。間違っていると思ったら、雇い先の主人にもしっかりと自分の考えを云う、アルテのスタンスは相変わらず確固たるものです。
 「あなたのためを思って」という親の言葉は、時として全く実状が伴っていなかったりしますが、かといって子どものことを真剣に考えてくれる存在も、親以外にはそうそう居ません。アルテは幸せな子ども時代を過ごしたようですが、それだけにカタリーナの両親に腹が立ったのでしょう。

 宙ぶらりんな状態を脱するために、カタリーナはジモに再会しないといけない。そう考えたアルテはカタリーナを連れ、ジモの居るムラーノ島へと向かいます。
 カタリーナがいなくなって大騒ぎになるファリエル家を尻目に、2人は船でムラーノ島へ。現代においても、ここはヴェネツィアン・グラスの生産で有名とのこと(右はAmazonで見つけたグラス。出品が「murano」となっていますが本物かな?)。この時代から既に名を知られていたようです。
 ふとしたことでアルテとはぐれたカタリーナは、単身ジモと会うことになります。果たしてジモは、昔と変わらずカタリーナと接してくれました。彼女が抱えていた憂鬱は、晴れていきます。
 仕事にせよ私生活にせよ、些細な行き違いや確認不足から仲違いしたり疎遠になる、なんてことはしばしば見聞きします。けれど、お互いの本当の気持ちというのは、確かめてみないと分からないものです。確かめること自体、怖かったり面倒だったりするだけに、アルテに背中を押されたとはいえ、ちゃんとジモに会ったカタリーナは偉いです。
 しかし、別れ際にジモは、やはり「もう二度と会いに来るな」と告げます。彼がカタリーナに語ったことは、自分の置かれた状況にめげずに前向きに生きろということ。「生まれは選べない…/自分の生まれがどんなに嫌でも辛くても/それを受け入れて前に進むしかない」というボーナの言葉は、諦めのようにも取れますが、カタリーナの過去に出てくる彼女の明るい様子を読んでいると、とてもそんな後ろ向きな言葉とは思いません。
 正直なところ、それでどうにもならないことも現実にはあると思います。しかし、まだ前途あるカタリーナは、まずはボーナやジモの云うことを聞いてみたら、とも思います。

 島から戻って3日。マルタから解雇を(というかユーリの元へ戻るよう)言い渡されたアルテ。何も変わらなかったと思いきや、カタリーナにも、その母ソフィアにも、ちゃんと変化は訪れていました。
 もう“フリ”は止めたカタリーナとソフィアの母子の抱擁で本編は幕。次巻へと続きます。

 カタリーナのことは一件落着のようですが、物語はまだヴェネツィアを舞台に展開していくようです。カタリーナの「秘密の趣味」については、まだ両親にも知られていないですし、その辺も何か補足があるのかとも思いますが、どうでしょうか。
 「レオさんの一日」で、男やもめ(?)となった師匠の寂しさを味わい、巻末の「あとがきたぬきまんが」では当時の結婚適齢期への理解を深めつつ、7巻を楽しみに待ちたいと思います。次巻発刊予定は、およそ約4か月後の7月20日です。

 - 一画一会, 随意散漫 , , , ,

 

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