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漫画の感想やレビュー、随想などをつづる夜

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第17夜 二次ヲタにだって二次ヲタなりの家族愛…『おたくの娘さん』

      2018/06/28

「あのお父さん…/ひとつ聞いていい?/お父さんって…/『おたく』なの?」「ごめんね」


おたくの娘さん(1): 第1集 (ドラゴンコミックスエイジ)

おたくの娘さんすたひろ 作、作者Webサイト上掲載(2005年2月23日~)→富士見書房『月刊ドラゴンエイジ』掲載(2006年11月~2011年10月)

 守崎耕太(もりさき・こうた)は同人作家と漫画家アシスタントを掛け持ちするオタク青年。二次元趣味に邁進する毎日である。
 ある日、彼の住処兼仕事場にしてオタクの巣窟であるアパート“彼岸荘”に、9歳の少女、雪村叶(ゆきむら・かなう)が訪ねてくる。叶によると、彼女は耕太の実の娘だという。
 高校時代、先輩の雪村望(のぞみ)と一度だけ過ちを犯したことを思い出した耕太は、破産して不如意になっている望の願いを受け、叶と暮らすことを決意する。オタクの父親とフツーの娘、アパートのクセモノ住人たちをも巻き込んで、奇妙で大騒ぎな親子生活が始まるのだった。

変則子育て漫画
 「こんな自分に、もしも子どもができたりしたら、まともに育てられるのだろうか」と思うことがある。コミケの隆盛ぶりなど鑑みると、その参加者には子どものある人もいるだろうし、その子ども達はどんな人間になるのだろう、と、少し怖いような興味深いような不可思議な気持ちになる。
 恐らく、そうした時代だからこそ、本作のような作品が出現してきたのだと思う。作者も自分と同じような、子どもがいておかしくない年頃のオタクなのだろう。
 いきなり子持ち(しかも女の子)の境遇に置かれることになった主人公の物語は、上記のような疑問に対するシミュレートという意味で興味深い。オタグッズをどうするかという形而下的なことから、9歳の女の子をどう扱うべきなのか、そして、親としてどう接するべきなのかという、この上なくシリアスなことまで。
 コメディタッチで描かれながらも、要所要所では、主人公と読者に、子どもと一緒に暮らす、育てるというのはどういうことか、鮮烈に問うているように感じる。変則的子育て漫画といってもいいのかもしれない。

家族の行方
 一方で、物語の後半はまた趣きが変わってくる。詳細な表現は避けるが、単に親子だけでなく、家族の今後について、主人公は難しい選択を突きつけられることになる。同時に、主人公親子以外にもサブキャラクターたちそれぞれの家族の形も描かれていく。この辺りは、当初想定されていた、「『ジョジョ』のように主人公が代替わりしていく」という展開の構想が、不完全ながら生かされている。
 家族というと、どうしても重苦しい展開になってしまうことが多く、じっさい本作もかなり痛烈なシーンもあるのだが、どうにか序盤と同じコミカル路線を保っていられるのは、オタク的ギャグがたびたび挿入されるためだろう。純粋に物語に浸りたいという読者には不評を買うかもしれないが、これによって作品の根底が明るく保たれている点を評価したい。バランスの絶妙な1作である。

*書誌情報*
☆通常版…B6判(18 x 12.8cm)、全11巻。電子書籍化済み。
☆パイロット版…作者ウェブサイトにて14話まで公開中。→終了の模様

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