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【一会】『猫瞽女―ネコゴゼ― 2』……温泉地の勝負の行方はロシア式

      2018/07/21

猫瞽女 ―ネコゴゼ―  2巻 (コミック(ヤングキングコミックス))

 巫女に次いで猫耳という、ある意味で近年のヲタク界隈の要求を飲み込んだ上で、見事に渋み溢れる作品世界を描き出す宇河弘樹先生の『猫瞽女ネコゴゼ―』第2巻が先日刊行されました。
 描かれるのはパラレルな195X年。戦争に勝利したソ連によって支配され「日本自治ソビエト社会主義共和国」と呼称されるようになった日本の片隅で、人間たちと同じように、ある者は一途に、ある者は卑しく、ある者は苛烈に生きる、猫たちの渡世の物語です。
 中心となるのは、唄と三味線を表稼業にしながらも、仕込んだ刃を抜けば無二の遣い手である“はぐれ瞽女”夜梅(ようめ)と、ロシア正教に由来していそうな“機密”能力を行使する行者の鶯(うぐいす)の2匹の雌猫。当座の2匹の目的は、鶯の養い親を殺し、兄を収容所送りとした当局の秘密警察“必罰執行人”の何者かを追うことですが、仁義に篤い2匹のこと、権力を得た悪の前に涙を流す猫たちの力となって力を振るう展開となりそうです。

 今巻では、前巻から引き続いた、共産主義政府転覆を狙う勢力とも繋がりのある女衒・娥金丸との決着、そして夜梅たっての希望で訪れた箱根の温泉での一件が描かれています。
 娥金丸との決着については、肉体を強化する「骨砕き(コストロマー)」の“機密”を持つ娥金丸と如何に渡り合うかという点もそうですが、その後の、遊女として囚われていた猫たちの動向が何ともビターで心に残ります。女たちの元締めらしいお辰ねえさまの言葉を借りれば「進んで格子(かご)の中で生きる者もいる」ということです。そしてまた彼女たちに便宜を図ったと思しき“必罰執行人”の1匹、桜唇(おうしん)こと“ナンバー90(ヂヴィノースタ)”の暗躍も底知れない感じです。悪者1人倒しても、それで万事が大団円とはならないのは、人の世も猫の世も同じというところでしょうか。

 ところで、桜唇が責任を問われて“執行人”たちの評議会にかけられた際に「インターナショナル」を唱和するシーンが出てきます。前巻では瞽女唄の映像を資料として貼りましたが、「インターナショナル」も実在する歌なので以下に日本語歌詞によるもの(作中のものと同一)を貼っておきましょう。実際に日本でも、かつての社会主義運動や学生運動の集会などで歌われていたようです。

 1巻から夜梅が行きたがっていた箱根では、温泉で束の間のしっとりとした時間が流れたりもしますが、またぞろ火種にかち合うことに。地元の賭場を押さえ、箱根の街道筋を牛耳る労農警察(ミリツィア)の民警大尉アントニーダが今度の相手です。
 細かな顛末は書きませんが、仲居さんの旦那が賭場で大勝負・払えないなら嬶が質草・刻限は明日の朝日まで、くらいでお察し頂けると思います。
 芦ノ湖に浮かんだ輸送機の中で立った賭場に入った2匹の(というか夜梅の)勝負士ぶりも頼もしく、アントニーダと直接対峙となりますが、そこで持ち出されたのは、かの国の軍人が自棄のやんぱちで発明したと云われる、リボルバーと実弾1発を用いたゲーム。「インターナショナル」といい、このゲームといい、瞽女唄を前面に押し出した1巻と趣きを変えて、今巻ではロシアゆかりの要素が散りばめられていると云えましょう。

 仲居の旦那も男を見せ、さて反撃といったところで今巻は幕。来夏と予測される3巻に続きます。
 国や組織が入り乱れ、なかなかに複雑な勢力図となっていますので、前巻末の「桜唇のスパイ手帳」を見て再読しつつ、待ちたいと思います。

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