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【一会】『進撃の巨人 21』……命の選択、“壁の外”の来歴

      2018/07/21

進撃の巨人(21) (講談社コミックス)

 やはり前巻の予告通りの発刊時期となった『進撃の巨人21巻。遅くなりましたが、読んで思ったことなど書いていきたいと思います。

 決着が近づくウォールマリア奪還戦。前巻において、どうにか敵主力の多くを打倒した人類側ですが、支払った代償もまた大きなものでした。大多数の調査兵は戦死、巨人化したエレンの攻撃をアシストするために身体を張ったアルミンは全身に重い火傷を負い、突撃した調査兵団長エルヴィンも瀕死、リヴァイとハンジも傷を負い、満足に動ける者は数えるほどしか居ない状態です。

 そんなさなか、撤収していくジーク戦士長(=「獣の巨人」)はエレンと相まみえ、「俺はお前の理解者」でエレンは「父親に洗脳されている」と意味深なことを云いますが、いま冷静にその意味を考える余裕はありません。エレンが願うのは、アルミンの救命ただ1つです。
 現状で、死に瀕したアルミンとエルヴィンを救う術はただ1つ。かつてロッド・レイスが持ち、それを奪ったケニー・アッカーマンからリヴァイに手渡された、巨人化する注射です。
 これを打たれた者は巨人化し、さらに既存の巨人を喰うことで、その能力を自分のものにすると同時に瀕死状態から再起することができます。貴重な人員の命を救うだけでなく、鎧の巨人を喰えば鎧の力を、獣の巨人を喰えば獣の力を、超大型巨人を喰えば超大型の力(この場合は特性と云うべきかもしれません)を、人類側のものにすることができる、ということかと思われます。
 しかし問題点が1つ。それは、今ある注射は、たった1本である、ということです。注射を打って救うべきはアルミンか、エルヴィンか。ここに非情な二択が現出することとなりました。

 片や有能とはいえ新兵、片や現役の組織の長という二択は、字面だけなら二択にすらなり得ないものでしょう。実際、団の幹部は迷いません。もしも自分がこの場に居合わせても、敢えてそれをひっくり返そうとするかと自問すると、YESとは云い難い気がします。ヒロイズム的に考えれば、エレンやミカサが云うように、もちろんアルミンを救いたいのですが、じゃあそれで今後が立ち行くか、と訊かれたら、何も云えなくなりそうです。
 それに、エルヴィンの指示で死の突撃に加わり、辛くも生き残って瀕死のエルヴィンを担いで来たフロックの言い分も分かります。敵を滅するため、味方も自分自身すらも死に追いやって構わないという悪魔の発想の持ち主は、こんなところで楽に死なせるべきではないのではないか、もっと生きて敵を殺し続けて、己の破滅に向かって崩れ落ちていくべきではないか、ということでしょう。
 生き返らせたい人が何百人も居る。けれど、いまエルヴィンを失うわけにはいかない。いつも捉えどころの無いハンジが、そう自分の思いを吐露しながらミカサを説得するところに、とても感情移入して読みました。
 注射を誰に打つかの決定権は、リヴァイにあります。彼が最後の決断を下す時、脳裏に去来した記憶の断片は、彼にどんな思いを与えたでしょうか。
 リヴァイが云うように、生き残った者は、生き残れなかった者の命の代わりにはなれません。状況は後悔を許しませんし、今は進むことが最善なのだと思います。

 辛くもウォールマリアを奪還した人類。見張りを残し、リヴァイ、ハンジ、エレン、ミカサの4人は、シガンシナ区の調査へ向かいます。行き先は、エレンとミカサの家。エレンの父が託した「地下室」に、とうとう踏み込んだ4人が見つけたのは、現在の彼らには理解し難い技術で造られた紙片が貼られた、3冊の手記でした。
 そして、既に匂わされていたように、エレンの父・グリシャは壁の外から来た人間でした。彼の手記によれば、壁の外の人類は滅んでなどおらず、優雅な暮らしをしているのだといいます。
 つづいて手記は、彼の生い立ちを語り始めます。エレン達が暮らす壁の中より数段すすんだ科学技術を有することがうかがえる外の世界は、しかし「楽園」という言葉とは程遠いものだったようです。
 巨人の力を有し「ユミルの民」と云われるエルディアと、そのエルディアの侵略行為に対抗した大国マーレ。9つの巨人の力をめぐる2つの民族の闘争と、現在のエレンたち壁の中の人々との繋がりはまだ明確ではありませんが、大まかなところは明らかになってきたように思えます。波乱が訪れたところで次巻に続くグリシャの記述は、どんな結句に至るのか。そして現在の壁の中の人類と巨人たちの戦いの行方は。やはり謎を残し、物語は次巻に続きます。

 次巻22巻は、4月7日刊行予定とのこと。今回はアメリカンなハイスクールでのスクールカーストをモチーフにした巻末ウソ予告(クイーン・ビー[学園の女王様]なヒストリアが割と似合ってます)と、限定版付録の小説小冊子でクールダウンしつつ、続きを楽しみに待ちたいと思います。

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