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【一会】『銀の匙 Silver Spoon 13』……部活引退。そして彼が動き出す

      2018/07/10

銀の匙 Silver Spoon 13 (少年サンデーコミックス)

 進学校の私立中学から受験に失敗し逃げるように農業高校に進学した八軒勇吾(はちけん・ゆうご)とエゾノー生たちの農業&畜産青春グラフィティ『銀の匙 Silver Spoon』。遅くなりましたが新刊の13巻を読了しましたので書かせて頂きます。
 前巻後半から作中の時間の流れは速くなり、今巻ではハチ(八軒)たちが3年生の6月からスタートです。大まかに云うと、ハチたち馬術部のインターハイと、一方で立ち上げているビジネスに絡んでのジャーマンピザ作り、そして部活を引退した3年生たちが受験一本になっていく辺りまでが今巻と云えそうです。

 前述の通り、馬術部の面々はインターハイ地区予選に出場、そしてなんとか突破します。試合前には日高農業の沙流川君がアキ(御影)に変なプレッシャーをかけてきますが、副社長でヤ●ザの息子(ということになっている)男がものにしようとしてる女を、どうこうできるわけがないですよね。そのまま沙流川君は八軒父が天敵になった模様。
 馬術的にはハチの見せ場はないに等しい(アグネス号との相性のくだりはともかく)のですが、その分は御影の本気が格好いいのでプラマイゼロでしょうか(?)。昔、小学館の学習雑誌で『ミニ四トップ』を描いていた、たなかてつお先生のRCカー漫画で、操縦者があたかもRCカーに乗っているような感覚で操縦する状態を「ライドオン」と表現していましたが、アキの「お尻がプラグになってコンセントにがちっとはまるような感覚」はまさにそれと同じものでしょう。基本的に農業・畜産漫画な『銀の匙』ですが、このシーンは手に汗握る部活漫画として圧巻だったと思います。
 ところでエゾノー馬術部に伝わる団結の言葉は、ひたすら馬を持ちあげて自分たちを卑下するというもの。「俺たちはクズだ!!!」って、なんだか『妄想戦士ヤマモト』(100夜100漫第29夜)でも聞いた気がします。

 インハイ予選が終わると、ビジネスの一環(なのかなぁ)として最強のイモ、チーズ、肉を使ったジャーマンピザ作りの一幕が。自分たちで作ったものを組み合わせて美味しいものを作る、というのは堪えられない楽しさでしょう。しかもピザとあっては富士(元)先生でなくても明らかに「ビール案件」だと思います。
 ちなみに、ハチの会社の暫定社長である大川先輩が消化不良の常盤のために用意した“やけに黒胡椒みたいな熊の胆”ですが、黒胡椒の薬効として消化不良などの消化器症状に効果があるみたいなので、あながちプラシーボとばかり云えないようです。

 そんなエピソードも挟みつつ、インターハイ本戦のために馬術部は静岡県の御殿場へと赴きます。
 インハイはもちろん重大ですが、アキは受験の方も、というか受験の結果によるハチの反応も気になる様子。「八軒君はバカな女子は嫌いですか…!?」と危惧するってことは、もうOKサインってことでいいのでしょうかね。。
 一方のハチもまた、後に南九条あやめ(みなみくじょう・――)から「二百五十五軒」とか言われちゃうことを仕出かしてしまったり。「御影さんは馬が下手な男は嫌いですか…!?」。どうなんでしょう。
 御殿場で育てられている金華豚(きんかとん)は、ハチたちのビジネスには直接結びつかなかったみたいですが、どんなものか、自分も食べてみたいと思いました。金華火腿(金華ハム)の材料とのことですが、自分は金華ハムほとんど食べたことないですし。ちなみに世界三大ハムの1つだそうで、残り2つはイタリアのプロシュート、スペインのハモン・セラーノとのことです。

 やがて、ハチたち3年生の生活は徐々に進路一色に染まっていきます。112話の扉(p134)は、バス停で待つ5人がそれぞれの将来に向けた本等を読みふけっている図。バス停が進路を暗示させて素敵な扉絵だと思います。
 進路談義では、アキとハチの「……この夏が勝負だよ……」「地獄まで付き合ってやるよ……」のやり取りが覚悟完了感が出ていていい感じです。インハイの結果のためにちょっと面倒臭いことになっていたハチですが、アキの受験の責任を持つという点はブレていないようです。
 受験や就職が現実味を帯びていく中、馬術部3年生は引退します。自分は大してきつくもない部活だったから特になにもなかったけれど、早朝から馬の世話をしていた馬術部を引退するとなると生活の一大変革。解放感もあるけど寂しくもあって、複雑な気持ちでしょうね。この漫画と似て非なる汗臭さに満ちた『柔道部物語』(100夜100漫第52夜)の、主人公の一つ上の小柴先輩たちが引退した時の感じ(「こんな汗臭い道場なんか二度と来るか」と云いつつ、ちょっと泣いちゃう)を、ちょっと思い出しました。

 こうして今巻も終わり…と思いきや、駒場一郎(こまば・いちろう)からハチに1本の電話が。家庭の事情でエゾノーを辞めた彼の動静は、実のところちょくちょく描写されてはいるのですが、電話をよこしてくるのは久々(初めて?)のことです。やはり、そろそろ彼にも表舞台に出てきてもらいたいところですね。彼がハチに「頼みたいこと」とは何なのか? 否が応にも気になる引きで、今巻は幕切れとなります。
 現在も不定期連載のため、次巻刊行は予想しにくいですが、巻末予告を見れば物語がクライマックスに向けて動き出しつつあることは分かります。盛り上がり必至な次巻だけに、鷹揚に待ちたいと思います。

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