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漫画の感想やレビュー、随想などをつづる夜

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第26夜 真のヒーローは、弱きを癒し強きも癒す…『オンセンマン』

      2018/07/19

「それでもオンセン・イン!」


オンセンマン (1) (角川コミックス・エース)

オンセンマン島本和彦 作、角川書店『月刊少年エース』掲載(1995年2月~1996年12月)

 箱根の大涌谷(おおわくだに)から200年に1度の奇跡で生まれる伝説の勇者、オンセンマン。彼は病み疲れた都会の人々を自らの温泉パワーで癒していく。
 問題児だった勝田涙(かった・るい)も温泉の力で更生させ、日本中の温泉はおろか、銭湯、プール、海にまで活躍の場所は広がる…というか、あまり何もしてはいないんだけど。
 それはさておき、今日もオンセンゴー!なのだ。

愛の戦士
 本作が連載されていたとき、自分はまだ10代だった。まだ疲れを知らない身体は、だから本作のことを「ダサい」と考えさせた(それでも毎度読んでしまったのは、作者の熱さによるものだろうか)。
 時が経って疲れというものを知り、温泉の素晴らしさを知る歳になった。今では立派な温泉フリークだ。そうなってから改めて本作を読んだ。やっぱり島本節は馬鹿馬鹿しく熱かった。しかし同時に、オンセンマンというキャラクターを「ダサい」とは感じなくなっていた。
 オンセンマンは愛の戦士だ。だから温泉を掘り当てたり、ただのお湯を温泉に変えたり、人を無理やり温泉に入れたりというように、基本的に相手が気持ちよくなるような技しか持ち合わせていない。女児向けアニメの美少女戦士ですら肉弾戦を繰り広げ、アンパンですらバイキンをパンチするというのに、オンセンマンはパンチのひとつもしない。これはすごいことではないだろうか(まぁ、代わりに友人である勝田涙たちが肉弾戦をしているということもあるけれど)。しかも、そこに欺瞞がない。生半可にやれば嘘臭く感じられるのだが、オンセンマンは信じられるのだ。作者の作風の勝利とでも言うべきなのだろうか。

ストーリーよりも癒しを
 序盤は1話完結形式のエピソードが続くが、中盤以降、オンセンマンの前に大きな敵が立ちはだかることになる。話は数回に渡って展開していき、驚愕のシーンとともに一応の終結を見るのだが、今後のオンセンマンに容易ならざる宿題を残す形となる。が、オンセンマンはあんまり気にしない。それでいいのか、と突っ込みたくなるが、それでいいのだ、と返されそうだ。オンセンマンは愛の戦士なのだ。人々の癒しが何より最優先なのだ。メタレベルでそう主張しているようで、読者は苦笑とともに読了するしかない。終盤、少し迷走するような話もあるが、最終話は彼の真髄とも言えるエピソードになっている。現在入手困難な作品ではあるが、もし手に取ったのなら、ゆるゆると、だがしっかりと、最後まで目を通してもらいたい作品である。

*書誌情報*
☆通常版…B6判(18.2 x 13.2cm)、全3巻。絶版。

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