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【一会】『双亡亭壊すべし 4』……彼方から来たらんとするもの

      2018/07/21

双亡亭壊すべし(4) (少年サンデーコミックス)

 東京都豊島区に建つ、謎めいて不吉な建築物〈双亡亭〉が引き起こす奇怪な出来事と、そこに巻き込まれ、これを破壊せんとする者たちを描いた『双亡亭壊すべし』。4巻が刊行されたのは4月のことです。既に先月下旬に5巻が出ていますが、追っかけで思ったことを書いておきましょう。
 〈双亡亭〉内に侵入し、超常的な事態に遭遇する、駆け出し絵描き青年・凧葉務(たこは・つとむ)と、魔を払う〈刀巫覡(かたなふげき)〉の少女・柘植紅(つげ・くれない)、そして自衛隊の突入部隊と民間の能力者たち。そして、虚空から舞い戻った少年・青一(せいいち)と、〈双亡亭〉に父を奪われた少年・緑朗、そして、国会議事堂に2人を呼び寄せ、集った歴代の総理たち。それら2つの視点から、物語は語られてきたのでした。

 今巻でまず語られるのは、歴代総理たちが経験した恐怖です。
 総理就任とともに〈双亡亭〉に贈られてくる「肖像画」。そして爆ぜたり溶けたりした幾人かの総理。不気味この上ない話ですが、34代総理だった真条寺禅一氏が残したとされる「書き付け」の存在から、ある推理が成り立ちます。
 それは、何者かが総理に成り替わり、双亡亭に水路を引こうとしている、ということ。「入れ替わる」ということについては、斯波総理と桐生防衛大臣が少年時代に〈双亡亭〉で経験した「ナナちゃん」の変貌とも符合しています。
 何者が何のために、そんなことを行っているのか? それはまだ分かりませんが、善いことでないのは確かでしょう。歴代総理の誰もが見ているらしき「悪夢」のヴィジュアルは、明らかに不吉です。
 斯波総理たちを中心に、〈双亡亭〉破壊は歴代総理の悲願となっている様子。〈双亡亭〉爆破の決死隊に姉の紅も加わっていることを知らされ緑朗は焦ります。が、まず〈双亡亭〉とは詰まるところ何なのか、その背後には何者がいるのか、を知る必要があるでしょう。現状、それを語れそうなのは青一ただ1人です。それだけに、知っていることを教えてくれと頼む総理たちの表情も、真剣そのものです。
 飛行機の事故で行方不明となり、45年を経ながらも少年のまま――しかし姿を変えて帰ってきた青一。〈双亡亭〉について語ろうとする彼の話は、旅客機が不時着した見知らぬ星の情景から始まります。

 しかし、ここでいったん場面は転換、〈双亡亭〉内の凧葉たちが描き出されます。前巻ラストで、凧葉と紅、物質現出(アポーツ)能力の使い手フロルが合流しましたが、そのフロルの養父でもある心霊学者アウグスト博士のグループは、彼らだけで亭内を歩き回っている模様です。
 どうも博士は、「肖像画」から出てきた「白い手」が霊的現象ではなく生物であると考え、自分の研究の役には立たない、とご立腹のようです。フロルと交際しているらしい弟子のグラハムにも厳しい態度の彼の前に現れたのは、例の「肖像画」によって変容したチームのメンバーの2人、カークとマックス。各人が両腕に装備した「転換器(リバーサー)」同士による戦いが始まります。
 アウグスト達の説によれば〈霊体〉は電磁放射エネルギーの蓄電であり、これに効果があるのは同じく電磁エネルギー。この電磁エネルギーでカンターチャージをかけるのが「転換器」というわけですが、双方がこれを使用した場合、電撃合戦になること必至です。からくも「肖像画」に引き込まれることを回避した「特対」隊長の女性・宿木もアウグストの加勢に加わりますが、既に人間とは異なる存在に「変化」した相手には分が悪そうです。
 そこに駆けつけたのが、フロルを追ってきた紅と凧葉。アウグスト・宿木・紅が、それぞれ役割分担して対抗しますが、決め手になったのは凧葉の洞察と「黒い手」でした。
 辛くも2人を倒した一行。変わり果てたかつての仲間を見て、アウグストは長いつきあいだっただろうマックスに「バカめ…」と呟きます。傍若無人で他人に厳しそうな彼ですが、その台詞からは幾分か人間らしい心も感じられますね。マックスたちの変貌はまた、〈双亡亭〉にいるものが生物であるというマックスの解釈を転換させることにも繋がりました。今後、彼の考察は重要になってきそうです。

 〈双亡亭〉内の一戦の後、場面は再び国会議事堂に戻り、青一の話が続けられます。
 45年前、不時着した白い海の惑星で、旅客機に乗り合わせた人たちが出会ったのは、その白い海そのもの、“一は全、全は一”とでもいうべき生命体でした。彼らは感情こそ理解できないものの、地球人の記憶や思考を「走査」し、感情ある「客人」から刺激を受ける興味深さから、歓待してくれます。
 それはすなわち、遠い異星に、地球人たちの家族や街並みが再現されることを意味しました。青一たちの前には「北海道のおじいちゃん」の形をとって現れた「白い海」は、他の人の前にも肉親の姿で現れ、見知った家や、食事ができる店や、飲食物や衣服などあらゆる物に変化して、不時着した地球人の生活を支えてくれます。
 遠い異星に突如として現れた“毎日が日曜日”的な生活には、少し惹かれるものがあります。多分、大人たちは仕事していないでしょうし。もちろん家族に見えてもあくまで“再現されたもの”なので、心を揺るさない人も相当数いたようですが、ここでの生活が地球の生活からの逃避として機能していた人も、幾人か居たようです。
 これほどまでに良くしてくれる「白い海」に、青一もまた心を許せないようでした。が、そんな彼に向けられた「おじいちゃん」の言葉は説得力を持って響いたと思います。「白い海」にとって、彼らが与えてくれた初めての感情は何物にも代えがたかったということでしょう。
 そのまま、風変わりで穏やかな日々が続けばよかったのですが、しかしこれは〈双亡亭〉にまつわる青一の回想です。既に彼らが不時着した時に示されていますが、「白い海」の星は「侵略者」の星から侵略を受けていました。資源として「白い海」を汲み取っていく「侵略者」により、「白い海」の星の寿命は間もなくです。
 感情がなく、侵略に怒ることも反撃することもしなかった「白い海」に、だから青一たち地球人たちは、怒りの形を教えて一緒に戦うことにしました。「白い海」の水と一体となった青一の怒りの形はドリルで、弟・マコトのそれは繊維(?)、他の人たちも剣だったり戦闘機だったりノコギリだったり、それぞれの怒りの形で「侵略者」に対抗する戦いが始まりました。 その戦いは45年――この物語が始まる直前まで続いていたようです。
 長い長い戦いを青一たちは有利に進め、ついに〈侵略者〉たちを追い詰めました。しかし、そのとき彼らが見知った「侵略者」の黒い星の意図は――といったところで今巻は幕。次巻へと続きます。

 巻末予告によれば第5巻は7月中旬刊行ということで、先日予定通りに刊行済み。既に自分も確保済みです。気になって仕方ないので、なるべく早く読んで書きたいと思います。

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