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第47夜 お笑いに彩られた、意外とマジな演義…『SWEET三国志』

      2018/07/07

「天下とって♥」


SWEET三国志 (3) (MF文庫)

SWEET三国志片山まさゆき 作、講談社『ヤングマガジン増刊海賊版』掲載(1992年~1995年)

 ワンス・アポン・ア・タイム、イン・中国、漢の国。劉備玄徳(りゅうび・げんとく)は豪傑の関羽(かんう)、張飛(ちょうひ)と桃園にて義兄弟の契りを交わした。世は乱れ、イエローフラッグの賊が跋扈し、帝は宮廷で美女とリンボーダンス、そんな先行きの暗い時代にあって、彼らは義勇軍を結成したのだった。
 それが彼らの、この国の永きにわたる戦いの時代の始まりだった。戦、お色気、計略、パロディ、論破、時事ネタ、競馬ネタ、楽屋ネタ、何でもアリの超ポップな三国志が開幕する。

イズ・ディス・ジャスト・ア・イミテイション?
 ふざけた作品である。けなして云っているのではない。多くの人が知っている三国志演義を、とても気持ちよく壊してくれているのが凄いのだ。一応は春秋戦国から三国時代が舞台なのだが、現代の我々がよく知っている事物がちょくちょく画面に入り込んでくる。例えば天下無双の武将である張飛は「全漢ボディビルコンテスト」の入賞常連、レスラーパンツを履いてサングラスをかけた兄ちゃんとして表現されているし、これに呼応するように猛将として知られる呂布(りょふ)もレスラーパンツで、こめかみにはサイボーグのように大きなボルトが差し込まれている。当然のようにハンバーガーだのコーラだのが出てくるし、武将達が現代日本(連載当時)の競馬やアイドルの話題をするシーンもある。
 しかし、予想に反してストーリーは元の演義に忠実であるように思われる。もちろん、大きく省略されている部分もあるが、この分量ではむしろ英断と云いたい。横山光輝の『三国志』は無論名作だし、コーエーのシミュレーションゲーム『三国志』シリーズは壮大な世界をグラフィカルに表現した点で偉大だが、こんなポップな三国志もあっていいと思わせられる内容である。

ファイナリィ,ア・ビット・オブ・ティアーズ
 思いもよらない武将のデザイン(曹操はビジュアル系、呉の人々はなぜかみんな関西弁、軍師の魯粛に至ってはなんとナマズ人間!)と出来事の解釈で驚きと笑いをもたらしてくれる本作だが、演義を忠実になぞっている以上、後半はスター武将たちの最期が次々と描かれ、湿っぽいシーンが多くなる(それでも笑ってしまうが)。特に、劉備の死に際した時の諸葛亮孔明(しょかつりょう・こうめい;服装は普通だが何故か鼻に縁日でみるピロピロ笛を挿している)の言葉と、その後に蜀の全権を担った孔明の最後の戦いのくだりは、少しだけ涙がこみ上げてくる。
 加えて、最後の空のシーンは、“つはものどもが夢のあと”感が醸し出され、「あれ、この漫画ってそういう路線だっけ」と思わせてくれる。コメディ歴史ロマンという、ありそうであまりない作風を楽しみたい。

*書誌情報*
☆通常版…B6判(17.8 x 12.8cm)、全5巻。電子書籍化済み(紙媒体は絶版)。

☆文庫版…文庫判(14.8 x 10.8cm)、全3巻。絶版。

☆コンビニ版…B6判(18 x 12.6cm)、全3巻。在庫僅少。

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