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【一会】『3×3EYES(サザンアイズ) 幻獣の森の遭難者 1』……それぞれの12年と、失敗を嘆くモノローグ

      2018/07/21

3×3EYES 幻獣の森の遭難者(1)

 今から12年ほど前、人類世界は滅亡の危機に瀕していました。それを幾人かの人物がどうにか阻止し、その後も色々とトラブルがありながらも何とか今日までやってきているというのが実情です。
 もちろんこれは、この漫画の大本にあたる『3×3EYESサザンアイズ)』(100夜100漫第100夜)のストーリーです。が、あながち現実世界においても的外れとも云い切れないものがある気がします。
 ともあれ、アジアの民間伝承やインド神話をヒントに描かれた伝奇バトル漫画の正統な続編の第1巻が、先日ついに発刊されました。本編にどっぷり嵌った自分はウェブ連載を発見した時、読みながら少しばかり小躍りしたものですが、1冊にまとまるとまた嬉しいものです。

 上記の通り、漫画内での時間は現実世界と同期しており、本編終了から12年が経過しています。本編の頃はまだまだ未熟な感のあった八雲は、不老不死の「无(ウー)」なので見た目は大して変わりませんが、請け負った仕事の多彩さから、実力も余裕も持ち合わせた大人の男になったことが伺えます。
 その他の人物たちも、水を使って戦う化蛇の綾小路葉子と術士のハズラット・ハーンの間にはセツという娘さんが生まれていたり、その3人の家庭には、区役所職員になった思念獣使い神山依子が居候していたり、かつてはベナレス配下の九頭龍将として敵対した舞鬼(ウーカイ)も何だか友人みたいになっていたりと、それぞれの12年を感じさせてくれます。
 まあ、変わった人もいれば変わらない人もいるみたいで、世界的に有名になりながらも妖撃社の面々は相変わらずですし、もう1人の主人公、聖なる力を持つ三只眼吽迦羅(さんじやんうんから)の1人、パールバティ4世ことパイも…相変わらず魔人『食っちゃ寝』呼ばわりされていますが。

 そんな面々が楽しく過ごす様子は、実のところこれまでも3×3EYES 外伝(E★エブリスタにて無料公開中)で垣間見ることができたのですが、今回のエピソードはあくまで本編の続編という雰囲気。冒頭から、何かの“失敗”を嘆く誰かのモノローグが語られ、これまでの外伝とは違う切迫感が漂います。
 1巻の大筋としては、パリにおびき寄せられた八雲たちが、八雲の不死人としての力を利用しようとするノルマルテなる男と、その協力者である日本の女子高生や妖怪たちに襲われるというもの。甲子美智瑠(きのえね・みちる)たち女子高生は八雲と同じような獣魔術を使うし、協力者と云いつつも腹に一物ありそうな妖怪ウコバクとゲゲネイスも暗躍し、事態は混迷していきます。

 新たな戦いが始まる一方、自分の心に引っかかったことは2つあります。
 まず、八雲が漠然と感じている欠落感。今のところ実力的にはほぼ怖いものなしの八雲ですが、12年間何かを追い求めてきたと独白しています。パイはそれがベナレスのような戦いへの渇望ではないかと懸念しますが、どうなんでしょう。
 綾小路ぱいが主人公だった本編2章終盤のどんでん返しが記憶にある自分は、本編をも覆すような事実がありそうにも思えてしまいます。今のところサブタイトルの「幻獣の森の遭難者」の意図が分かりませんが、八雲のこの欠落感と、関連して明らかになってくる気もしています。
 そして、もう1つは葉子とハーンの見解の相違です。この漫画ではほとんどボーダーレスに描かれている人間と妖怪ですが、やっぱりどこかで断絶があるということでしょうか。ハーンの台詞は『うしおととら』(100夜100漫第64夜)最終盤の「あばよ、バケモン」が思い出されて胸が痛みました。この2人の関係にも注視したいと思います。

 舞鬼がいじられる巻末与太番外「舞鬼の誕生日」やカバー下の人物紹介&「あとがきのようなもの」まで自分は楽しく読みました。が、ストーリー的には完全に本編からの“続き”なので、初読の方にはちょっと敷居が高いかなとも思ったりも。この先の展開が盛り上がり、本編の方も何らかの形でリバイバルされたら楽しいのですが。ちなみにウェブ連載なので、今巻の続きはこちら(3×3EYES<サザンアイズ> 幻獣の森の遭難者 第15話)で読めます。
 単行本2巻は今冬発刊予定とのこと。ウェブの連載を追いつつ、12年前完結の本編も読み直しながら、刊行を待ちたいと思います。

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