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【一会】『まるせい 3(完)』……それぞれの道、そしてStand by Meの結末は

      2018/07/20

まるせい 3巻 (ヤングキングコミックス)

 成年漫画(いわゆるエロ漫画)にかける作者の分身、花比野Q一朗(はなびの・キューいちろう)こと日比野龍一朗(ひびの・りゅういちろう)の、仕事関係の女性と深い仲になっても彼女はできない哀感と、一方で漫画執筆にかける熱い姿を描いたこの『まるせい』。自分としては何となく、エロ漫画編集者による激動(!)の日々を記した『出版業界最底辺日記』(こちらは活字本ですが)を思い出したりもするこの物語も、3巻で最終巻となりました。ちょっと早めな完結が惜しまれますが、ともあれ最終巻について感じたところを述べたいと思います。

 Q一朗が描いた漫画『星家の一族』(元ネタは『月家の一族』でしょう)のアニメ化が決定、というところまでが前巻の内容。今巻は『星家』のヒロイン半月を演じることになった人気声優いろはとの出会いから始まります。
 まあ、惚れっぽいQ一朗のことですから予想通りの展開になった挙句、例によって彼女に似たキャラを漫画に描いてしまうのですが、そんな中でもふとしたきっかけで招かれてフランスに行ったり、スキャンダラスなトラブルに巻き込まれたり(まあトラブルはいつものことでもありますけど)。しかもそんな状況でも〆切は当然やってきますし。
 いろはには、とある事情があったりもするのですが、そのために#17での彼女の言動の真意はなかなかに解釈が別れるように思います。Q一朗にとっては色々な意味で強烈な印象を与えた彼女は、一言で云えば「ロックです」というところでしょうか。

 終盤では、いろはに加え、元アシスタントの下丸子まるこ(しもまるこ・――)、元担当編集者で元妻の吉永櫻子(よしなが・さくらこ)、現担当の市岡愛未(いちおか・あいみ)、元彼女で今は臨時アシスタントの麻生朋絵(あそう・ともえ)といった、これまでQ一朗と関わりのあった女性たちが、それぞれに道を歩んでいく姿が描かれます。
 最終話、いつも彼女達と桃色なことになっていた割に報われなかったQ一朗の側には、果たして誰かが居るのか、あるいは誰も居ないのか。巻の中ほどからのプロセスも含めて、その点は納得のいく結末だったかと思います。欲を云えば、あの時代の業界を元にしたエピソードがもっと読みたかったということはありますが、それは贅沢な望みというものでしょう。

 成年向け漫画という題材ならではのエロスと、その仕事に携わる人間の熱意、そして軽妙な描き方のバランスが程よく、読んで元気の出る漫画でした。花見沢先生、お疲れ様でした。「あとがきルーム」の「あそこに本当に/青春があったんです。」という言葉にちょっと目頭が熱くもなりました。また先生の漫画を手に取る日を楽しみにしています。

 - 一画一会, 随意散漫 , , , ,

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