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漫画の感想やレビュー、随想などをつづる夜

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第35夜 目を逸らさず、歩みを止めないということ…『るろうに剣心』

      2018/07/07

「剣は凶器 剣術は殺人術/どんな綺麗事やお題目を口にしても/それが真実――けれども拙者はそんな真実よりも、薫殿の言う甘っちょろい戯れ言の方が好きでござるよ」


るろうに剣心―明治剣客浪漫譚― モノクロ版 1: 巻之1 (ジャンプコミックスDIGITAL)

るろうに剣心和月伸宏 作、集英社『週刊少年ジャンプ』掲載(1994年4月~1999年9月)

 明治初期の日本。幕末の動乱期に“人斬り抜刀斎”として恐れられた元長州派維新志士、緋村剣心(ひむら・けんしん)は、人を殺すことを自ら禁じた証、逆刃刀を携え、各地を流浪する“るろうに”となっていた。流れ着いた東京で、父の剣術道場を継いだ女師範代の神谷薫(かみや・かおる)と出会い、剣心はしばし留まることを決める。
 新たな首都となった東京の地で、ある者は剣心を慕い、ある者は敵対する。その中には幕末の彼を知る者も少なくなかった。元江戸城隠密方、元新撰組隊長、京都から新政府転覆の野望を燃やす者、“人誅”として幕末の怨みをはらそうとする者たち――。幾多の戦いを経て、剣心は仲間達とともに自らの不殺(ころさず)の誓いを守りながらも人を守る強さを身に付け、生きていく。

贖罪という陰
 メディアミックス展開され、2012年からは三度にわたり実写映画化もされたので、ここで書くまでもない有名作であろう。しかし、第一幕からリアルタイムで読んできた者として、改めて書きたい。
 『武装錬金』(第6夜)と同様、表面的には「努力・友情・勝利」の三原則を守った“正しい”少年漫画であり、ジャンプ漫画として単純に楽しめる。ただし、本作にはどこか暗いトーンが付きまとう感覚がある。主人公である剣心は、戦国時代に開祖を持つとされる飛天御剣(ひてんみつるぎ)流の使い手であり無双の強さを誇るが、それ故に尋常でない数の屍を築いている。それが彼に暗い陰を落としている。
 彼以外の多くの登場人物も、裏切られたり死なれたりといった暗い過去を背負っている。幕末という時代設定上、それはリアルだと思うが、必ずしも少年漫画的ではないと言えるかもしれない。しかし、それによって「贖罪」という本作最大のテーマは強く迫ってくるように思う。

希望へと向かう姿
 そんな影をもつ本作ではあるが、作者の信念は「エンタテイメントの基本は笑顔とハッピーエンド」であり、最後には登場人物たちが絶望から脱し希望へと向かう力強い姿を提示してみせる。その落差が大きいだけに、要所要所での剣心や仲間たちのとる態度と決意に、胸が熱くなるのは自分だけではないだろう。特に物語の終盤、神谷道場唯一の弟子である少年剣士、明神弥彦(みょうじん・やひこ)が闘いの果てに追い詰められた窮地に剣心が駆けつける一幕は、暗鬱とした作中世界に曙光が差し込んだような快場面である。
 ただ一級の幕末バトル活劇というだけで終わっていたら、あるいは本作の人気は限定的なものだったかもしれない。そこに留まらず、少年漫画としてはハンデとも云える重いテーマを扱ったことで、映画化や特筆版の刊行に繋がる根強い人気を得ることとなったのではないだろうか。それは苦しい作業だったに違いない。が、そうした根源的な部分から目を逸らさない制作姿勢がなければ、緋村剣心が自らの罪に目を凝らす姿など、本当の意味で描けるはずはなかったのだ。

*書誌情報*
☆通常版…新書判(17.2 x 11.4cm)、全28巻。電子書籍化済み。最終巻には本編と無関係の短編「メテオストライク」収録。

☆完全版…A5判( 21 x 14.4cm)、全22巻。表紙・花札風口絵・カバー下「剣心再筆」描き下ろし。最終巻に通常版未収録短編「弥彦の逆刃刀」を収録。

☆コンビニ版…B6判(17.8 x 13cm)、全13巻+1巻(データブック『剣心華伝』、完全版ガイドブック『剣心皆伝』の合本)。絶版。

☆文庫版…文庫判(15.2 x 10.4cm)、全14巻。表紙描き下ろし。最終巻に短編「弥彦の逆刃刀」収録。剣心華伝初出の「春に桜」も収録。

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