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【一会】『白暮のクロニクル 9』……ついに辿り着いた、これが真相――か?

      2018/07/20

白暮のクロニクル 9 (ビッグコミックス)

 不老不死に近い吸血鬼っぽい種族“オキナガ(息長)”が存在する世界。見た目は少年ながら88歳の“オキナガ”雪村魁(ゆきむら・かい)と、彼らを管理する厚生労働省夜間衛生管理課(通称やえいかん)の新人・伏木あかり(ふせぎ・――)が、12年に1度、未年ごとに若い女性を殺す「羊殺し」を追う、社会派オカルティック推理『白暮のクロニクル』。8月末の話ではありますが新刊の9巻が出ました。遅れ馳せながら、概要と感想を記しましょう。

 前巻では特に色々ありましたので、先にその辺を整理してみます。
 「羊殺し」を追う過程で明らかになった、昭和18年12月24日に大女優・伊集幸絵(いじゅう・さちえ)が殺された事件。そして、その現場に居合わせた、あかりの上司にして“オキナガ”でもある竹之内唯一(たけのうち・ただひと)への疑惑が持ち上がったのでした。
 大騒ぎの末、彼の追憶が語られるとともに容疑は晴れましたが、手がかりを求めて訪れたオキナガ収容施設・長野光明苑で、伊集幸絵殺しの新たな容疑者が浮上しました。その最中、あかりと魁に接近してきたのは、魁に対して自らを「君の兄」だと説明し、あかりを「大きな羊」と評する不思議な少年。多分オキナガであろうこの少年の素性と、「羊殺し」に繋がるかもしれない伊集幸絵殺しの犯人の追及――事態は、この2点について進んでいきそうな気配です。

 以上の出来事のかたわら、光明苑では火災が発生したりもしていました(あそこでは以前も鉄砲水がありましたし、何だかトラブル続きですね)。その対応やら議員に頼まれた資料作りで汲々とする、あかりたち夜衛管の様子から今巻は始まります。
 久保園さんの愛妻家エピソードがあったりしつつも、「羊殺し」が現れると予想されるクリスマスまで、あと2週間。それまでに真相を解明して真犯人を捕えなければ、また被害者が出ることになるでしょう。
 日々の業務に忙殺されるあかりと、いよいよ「羊殺し」の正体に近づいてきたと感じている魁との間に少しばかり温度差が生じているようでもありますが、そんな中、あかりは自称「魁の兄」、少年のような容貌をしたオキナガ・桔梗凪人(ききょう・なぎと)と再び遭遇します。というか多分、凪人から接触してきたということなのでしょうけれど。
 長命者登録を済ませていない「野良オキナガ」である凪人に対し、職務上あかりは登録するよう説得しますが、あまり効果はない様子。オキナガの待遇については随所で描かれていますが、やはり彼らからすれば依然として好ましくないということでしょう。
 見かけ上、あかりの方が年上に見えますが、実際は凪人の方がはるかに年上。少年ぽく振る舞いつつも立ち回りは老獪だと思われますので、油断は禁物な気がします。

 光明苑で得た情報をもとに、あかり達はとある病院を訪れます。目的は、入院している本条勇一という人物に面会すること。この人物の元の名は、雀城英了(ささぎ・えいりょう)。昭和18年12月24日の伊集幸絵が殺された当夜を知る人物です。
 雀城によって、伊集幸絵殺しはひとまず解明されました。幸絵に深い思いを抱いていた竹之内の心中はいかばかりでしょうか。
 しかし、雀城は現在も続く「羊殺し」についても気になることを云います。「あの女学生は…」。そして、その夜の防犯カメラが撮っていた映像に映っていたのも、白いセーラー服の少女でした。
 女学生の正体を追いかけたいところですが、あかり、竹之内、久保園には、とある事情で翌日から謹慎処分が下されます。自宅で犬の散歩などしているあかりのもとを訪れたのは凪人でした。
 まずは信頼関係の構築から、ということで、あかりは凪人の話を聞くことに。彼は応仁の乱の頃の生まれだというかなり古いオキナガのようです。しかも、彼に“血分け”をしてオキナガにしたのは、竹ノ内だと云うではないですか。更に、彼は竹之内に殺されかけたとも。
 竹之内の存在を理由に長命者登録をためらう凪人に、あかりは竹之内に彼のことを黙っていると約束します。これが吉と出るか凶と出るか、なんだか嫌な予感がしますね。
 ここで少し気になったのですが、施設に収容されたオキナガが出所する可否を決めるのは課長である、という点。参事である竹之内と課長とどっちが偉いか、というのは気になるところですが、とりあえず、こういうことの決定権は、竹之内ではなく課長にあるようです。

 あかり達の謹慎中、魁は独自に女学生の手がかりを探し求めます。辿り着いたのは、オキナガを研究していた来間嘉一郎(くるま・かいちろう)の孫娘とされる人物。しかし、嘉一郎に孫はなく、ならば白いセーラー服姿で来訪し、嘉一郎に「あかねまる」と呼ばれていたというその女学生は、何者だったのでしょうか。
 「茜丸」という名に、竹之内は反応します。それは、はるか昔、彼が宿禰(すくね)の尊称で呼ばれていた頃、血分けしてオキナガにした者の名でした。
 ちょうどその頃、オキナガに批判的な週刊誌『週刊パトス』が“「羊殺し」はオキナガによるものであり、従って全てのオキナガは残虐である”との記事を掲載、世の中のオキナガへの風当たりは厳しさを増します。それを引き合いに、刑事の唐沢は魁の動きを牽制し、「羊殺し」はヨタ話だと一蹴しますが、魁が導き出した仮説に信憑性があったためか、一転、協力的に。これまでの経緯から、魁と反目しあう唐沢ではありますが、彼の刑事魂にはなかなか、滾るものがあります。

 新型インフルエンザの発生に伴い、あかりの謹慎は解除(課長によれば後で「代謹慎」させるそうですが)。ウィルスに感染しても発症しないまま歩き回るオキナガは感染拡大を助長するため、忘年会シーズンの街を歩き回ります。
 『パトス』の記事のせいか元からか、普通の人たちがオキナガに抱く印象は、あまり良くない様子です。「羊殺し」の件が気がかりではありますが、あかりの「本来の業務」はこうしたことなので、ぞんざいにもできません。
 あかりが通常業務に忙殺されているうち、魁と竹之内の調査は進みます。「オキナガだったら会えば判明(わか)る」ということで、竹之内の少々危ない橋を渡った尽力により、縁のあるオキナガ達が按察使文庫に集結、「羊殺し」の捜索に協力してくれることに。ほぼ不老不死のオキナガなので、70年ぶりの再会であっても緩いものですが、それでも仲間が集まる様子には事態の収束を強く予感させ、読んでいる方の期待は高まります。

 過去の捜査資料から新たに分かったのは、「羊殺し」は大柄な女性ばかり狙っている、ということでした。「大きな羊は美しい」。幾度か登場したこの言葉が、不吉さを帯びて繰り返されます。
 胸騒ぎと共に、あかりが行方知れずだという報が入り、事態は緊迫しつつ――今巻はここまで。刊行予定も目論みのうちなのか、作中と同時期の12月末刊行と目される10巻に続きます。

 実のところ、本巻の中盤あたりから既に真犯人を示すかのような描写がちらほらと出てきています。が、現時点で読者が素直に考えるだろうことが本当の本当に真相なのか、自分としてはまだ確信できない気もしたりして。
 前巻冒頭の12月24日のシーンにどう繋がるかもまだ不明ですし、緊張感と期待は否応なく高まります。読み返して自分なりの推理を構築しつつ、次巻を楽しみにしたいと思います。

 - 一画一会, 随意散漫 , ,

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