100夜100漫

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【一会】『少女ファイト 11』……誰だって古傷が堪えていないわけじゃない

      2018/07/21

少女ファイト(11)特装版

 今回も新たに言及する漫画です。100夜100漫の方でも『BAMBOO BLADE』(第182夜)を語ってますし、“女子高生部活モノ(体育系)”がマイブームなのかもしれません。
 さて、この『少女ファイト』、概要としては、姉(既に故人)への複雑な感情を紛らわすためにバレーを続ける少女、大石練(おおいし・ねり)と周囲の人々の、故人の影や家庭の事情や自分自身の性質による試練系な高校バレー生活という感じかと。主役は練ですが、脇を固める友人・知人・ライバルにも濃厚なエピソードが散りばめられた群像劇と云うこともできるでしょう。バレーの内容についてもかなり突っ込んだ描き方がされていると思います。

 色々あって春高(春の高校バレー)で是が非でも結果を出さないとならない練たち黒曜谷高女子バレー部(本気でバレーやってるなら当たり前でもありますけど)。前巻ラストで練は突然、全日本の合宿への招集を打診され、それを受けることにしました。今回の11巻のお話は、その続きから始まります。
 春高の選抜大会で陣内監督が仕掛けた采配のためにチームがギクシャクしてましたが、その辺は各自が自省することで乗り越えていく姿が挟まれつつ、メインは黒曜谷をしばし離れた練の方へ。日本のバレーの最前線と云える全日本合宿で、練も“自分がスタメンより全然弱い”という、今まで体験したことのない環境で己を見つめ直します(その実力差に、文字通り五体がバラバラにされるシーンが物凄い)。練習はもちろん、栄養や休養にまで目が配られ、細かな数字までも明確にしてデータを積み上げることで勝率を上げる、現代スポーツ科学の実践が垣間見られるという意味でも、この合宿は興味深く読みました。

 それにしても今巻でインパクト大なのは、現役全日本女子チームの面々のキャラクターです。特に初登場時にいきなり全裸なキャプテン桐生翔子(きりゅう・しょうこ)と、エース格で翔子とただならぬ関係っぽい高明寺十夜(こうみょうじ・とよ)のコンビが楽しく頼もしく、いい感じ。それと、合宿には練の全存在を慕う唯隆子(ゆい・たかこ)も参加しており、練と同室で語り合う一コマもあったりしますが、彼女にとっての戦慄すべき存在として、現役全日本メンバーにして黒曜谷OGでもある田上繭(たがみ・まゆ)も強烈な印象を残します。帯に書いてある「私/メダルが獲れたら/この世でもうやることないから死ぬの」という言葉は彼女のものですが、その言葉と、奥底に隠された感傷と孤独が、実は今巻の焦点かもしれません。彼女の「友達は/あなたの期待に応えるために生きてるわけじゃない/あなたも/友達の期待に応えるために生きてるわけじゃない」という言葉、一見冷徹な印象ですが、本当の友愛というものがもしあるとすれば、それはそういうことじゃないかと思います。
 練たち新参者チームとの紅白戦で、監督から完全勝利すれば高級焼肉と酒が食べ放題飲み放題と云われて無駄にテンション上がる翔子たちにしても、開けっ広げに見えながらも心の古傷が癒え切ってはいない様子。あくまで軽く語られる過去の辛さは、冒頭の全裸が伏線だったことをも示してもいます。
 自分が高校1年生だった頃、教師はもちろんOB・OGや一部の3年生も、自分のあまり誇れない日常とはえらく隔たった存在に思えたりしたものですが、何年も経って話を聞いてみれば、もちろんそんなことはありませんでした。翔子も十夜も繭も、そして恐らくは全日本の誰もが、癒えきってない傷をそのままに強いということは、この漫画全体のテーマにも繋がっているように思えますね。
 「姉ちゃんが人たらしだったおかげで現世は大変なのっ」と練の云う亡き姉、真理の夢枕とか、繭の本心とか、隆子とミチルの不平等条約の解消などもありつつ、今巻は幕引き。次巻刊行予定の来年夏まで、またしばしのお別れです。

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