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【一会】『純潔のマリア exhibition』……魔女マリアをめぐる、彼女や彼のイイハナシ

      2018/07/21

純潔のマリア exhibition (アフタヌーンKC)

 イギリスとフランスによる百年戦争を背景に、平和を願う魔女にして純潔の乙女マリアが、小生意気な使い魔たち、戦に迎合する魔女たち、兵士ジョセフ、天の御使い達と奮闘したり対立したりしつつ2013年夏に本編完結を迎えた『純潔のマリア』(100夜100漫第134夜)。その後に発表されたエキシビジョン(公式記録外)のエピソード4篇を集めた1冊が刊行となりました。最速で1/11から放映開始となるアニメ、1/15からの原画展とタイミングを合わせたものでもあるでしょう。

 分量的な内訳を書くと、まず全体の約半分を占めるのが、本編では“はすっぱ”な言動ながらも熱い活躍を見せたイングランドの魔女ビブの過去を描いた「ビブ」。そして残りを三等分する感じで「マリア」、「ジョセフ」、「エゼキエル」ということになります。
 本編を補完したり、本編の延長線上だったりする各篇は、相変わらずコケティッシュだったりこまっしゃくれてたりする女性キャラ&使い魔たちの言い回しが小気味よいです。
 加えて、終盤はテーマ的に結構な重みを伴って描かれていた本編とは違って、どれも優しさ溢れる話ばかり。最後に収録された「エゼキエル」は本編でラスボス的存在だったあの方の言葉もあって、非常に気持ちいい読後感。本編終了後のエキシビジョンとしては、これくらいの力加減がいいのかもしれません。
 もっとも、画の重厚さについてはその限りじゃないです。石川先生曰く「書き込みは本編より多いです。くどいゾ!w」とのことで、微かな陰影にも入魂の仕事がされているように思えました。

 4つのエピソードの中、なんとなく目を引かれたのは、唯一マリアが主役の「マリア」。マリアと使い魔たちのアジトでの何ともないやり取りを描いたものですが、誰が水汲みするかでモメたあげく遠投ゲームまでやるような閑暇な感じが、スピーディーだった本編と対比されて良い感じです。じゃれ合いみたいな日常が、監視者として遣わされたエゼキエルの心に何がしか積もらせていった、というようなことを思わせてくれる挿話でもあると云えるでしょう。

 作者の石川先生のブログによれば、この漫画の原型となるネームを15年くらい前に作ったものの、当時は編集サイドのOKが出なかったそうです。『もやしもん』(100夜100漫第163夜)のヒットを経て、2008年の『good!アフタヌーン』創刊時に執筆を乞われた時、棚の奥にしまい込まれていた初期ネームのことを思い出した先生は『純潔のマリア』としてリボーンされた、というわけですね。
 15年来の作品もこれにて完結となり(ついでに先生が80点あまりの挿絵を担当された『絵でわかる感染症 with もやしもん』も1/9に刊行)、石川先生は「次は何書こうかなあ」と思案中のご様子。厳しめな現実に、それでも明るく斬り込む先生の作風に、今後も注目したいと思います。

 - 一画一会, 随意散漫 , , , ,

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