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【一会】『アルテ 3』……難仕事の顛末は、よく寝、よく食べ、よく鼻血

      2018/07/21

アルテ 3 (ゼノンコミックス)

 ここでは初めて言及する『アルテ』。第3巻が先日発刊されたので語りたいと思います。
 盛期から後期ルネサンスへと移りつつある16世紀初頭のフィレンツェを舞台に、貴族の少女でありながら“自分自身の力で生きる道”を目指し、偏屈な画家のおしかけ弟子となったアルテ。そんな彼女を主人公に、ぶっきらぼうな親方レオや当時の人々の暮らしを描いた漫画です。男社会の中での女性の扱いや立場、現代にも通じそうな職人たちの仕事観、それに師への淡い想いなども織り込んだ綺麗な作品となっています。

 1~2巻では、アルテが実家を飛び出し、狭いながらも工房を営むレオのもとにどうにか入門し、幾つかの困難を切り抜けつつ働く姿を描いていました。勉強のために人体解剖を見に行ってひと騒動あったり、高級娼婦(コルティジャーナ)のヴェロニカに対して複雑な感情を抱いたり、自分と同じ働く女性である針子たちと一緒になって仕事をしたりと、なかなか起伏に富んだアルテの画家修業ですが、貴族出とは思えないタフさと明るさで頑張る彼女には、周囲の人間だけでなく読者もまた元気づけられるように思います。

 今巻では、前巻の後半で無理難題な仕事の依頼を押し付けてきた老富豪ウベルティーノへの折衝に、引き続きアルテが取り組むエピソードから始まります。
 前巻では手もなく言い負かされて撤退してきたアルテですが、ヴェロニカからある手ほどきを受けて再び依頼主のもとへ。交渉を成功させるには、“自信に満ちた態度”と“明快な説明”の2つがポイントと自分は感じましたが、どうでしょうか。業界も時代も違えど、現代日本でも云えることじゃないかなと思います。
 ウベルティーノとレオ、それにウベルティーノの元依頼先だったレオの師匠には、厳しさという共通項があります(レオの師匠だけは、他の2人とちょっと異質ですが)。上辺はどうあれ、やっぱり仕事をする上で厳しさは必要ですね。いま現在、師と呼べる人とそうたびたび顔を突き合わせるわけにはいかない自分のことを顧みると、たまには誰かに厳しいことを云って貰いたいと思う時が、確かにあるような気がします。

 ウベルティーノの仕事が終わり、ほっと一息と思いきや、アルテが“女性である”ことに端を発する、またぞろ困った事態が発生。紆余曲折あって、アルテとレオは壁面装飾画の1つであるフレスコ画の、複数の工房による共同制作に携わることになります。表紙のイラストは、まさにこの共同制作のイメージでしょう。
 このフレスコ画、今巻で読んで調べて知ったのですが、相当に重労働だった模様です。「フレスコ(fresco)」は英語で云う「fresh」に当たるそうで、壁に塗った漆喰が生乾き(=新鮮)なうちに絵を描くというものなので、ともかく速さが要求されます。そのため、漆喰も顔料もよどみなく供給し続けなければならない徒弟の肉体的疲労がつのるというわけです。
 作中でも、レオの助手を務めるアルテはきりきり舞いですが、それで擦り減るような彼女ではありません。作業の疲れをとるために、貴族らしからぬ食べっぷり、眠りっぷりを披露してくれます。
 特に食べっぷりについては、今巻から作者の大久保先生が食べ物の描写にも意識を配られたよう(巻末の「あとがきたぬきまんが3」参照)で、実に美味しそうに食べています。この辺り、お嬢様育ちに有りがちな気取りが無いのは、アルテの大きな魅力だと再認識しました。

 他の工房の親方や徒弟たちとも打ち解けて(その過程で2度も鼻血を出しましたけど)、また一歩、目指すものに近づけた感じのアルテですが、ラストにまた思わせぶりな人物が登場しています。それが良いことなのか悪いことなのか、まだ判然はしませんが、次に彼女の身に巻き起こるのは、“女性である”ことに続いて“貴族である”ことに因るものではないか、と予想しています。

 巻末に付された、大久保先生のイタリア取材を描いた「アルテ 取材記」も楽しく読み、最後に記された予告によれば第4巻は11/20(金)発売とのこと。期待と不安が入り混じりつつ、次巻を心待ちにしています。

 - 一画一会, 随意散漫 , , ,

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