100夜100漫

漫画の感想やレビュー、随想などをつづる夜

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第58夜 剣をクラブに持ち替え闘う騎士達…『ライジングインパクト』

      2018/07/08

「お前は なんでゴルフやってんだよ?」「おもしーがら」「じゃあ/世界一の飛ばし屋に なりたいっていうのは?」「そりゃおめえ/誰よりも球かっとばしたら気持ちいーべ?」


ライジングインパクト (1) (ジャンプ・コミックス)

ライジングインパクト鈴木央 作、集英社『週刊少年ジャンプ』掲載(1998年12月~2002年2月)

 女子プロゴルファーの西野霧亜(にしの・きりあ)は、試合の合間を縫い、温泉に入るため福島県の山奥を訪ねる。そこで出会ったハーフの小学生、七海ガウェイン(ななうみ・――)は、「世界一の飛ばし屋」になるため、日々友人たちと野球のボールでホームラン競争を行っていた。負けん気の強い霧亜は、ガウェインの身体能力に驚きつつも、ゴルフのドライバーによる飛距離を見せ付け言い放つ。「ゴルフってのは球技の中でも一番球を遠くにかっとばせるスポーツなんだよ」。その一言に魅せられたガウェインは、霧亜のクラブを使い、彼女を上回る飛距離を叩き出す。
 舌を巻いた霧亜はガウェインを本格的にレッスンするため、東京に招く。世界一の飛ばし屋になると宣言し、上京するガウェイン。自分と正反対のパッティングの天才少年、ランスロット・ノーマンを始め、幾多の強豪と渡り合う、勝負の日々が始まろうとしていた。

“円卓”の意匠
 少しだけ打ちっ放しのゴルフ練習場に通ったことがある。しかしドライバーがどうしても飛ばず、足が遠のいてしまった。PS・PS2の『みんなのゴルフ』シリーズは相当やったので、大体のルールや用語は分かっているつもりだ。が、それらがよく分かっていないとしても、本作を楽しむのに支障はないだろうと思う。
 作者の鈴木央はアーサー王伝説が大好きである。本作に限らず、手がけた作品の多くに西洋中世風のモチーフが使われているため、そうではないかと思っていたが、最近作の『七つの大罪』第1巻のカバー袖の記載で裏付けが取れた。それならそれで当初から『七つの大罪』のようにストレートな作品をものしていけばよかったのではとも思うが、諸々の事情があったのだろう。
 しかし、その事情によって本作が描かれたということに、自分は感謝したい。ゴルフという競技と、アーサー王伝説というモチーフを、双方の発祥の地であるイングランドで繋げたところにセンスが光る。主要な登場人物の名前は円卓の騎士から拝借しているし、一部の者の特殊な才能や、ゴルファーの“武器”と云えるクラブにも同様の意匠が施される。いかにも漫画的ではあるが、確かに中世騎士物語が似合いそうな瀟洒な画風で綴られることによって、不思議な魅力を湛えるに至っている。それは純然たる“ゴルフの魅力”ではないのかもしれないが、“ゴルフ漫画の魅力”とは云っていいのではないかと思う。

血脈か努力か
 もう1つ、本作で見逃せないポイントは、「血脈VS努力」という対比ではないだろうか。ここでいう「血脈」とは、「能力の遺伝」とほぼ同義だ。すなわちその者の実力が血統によって決定してしまうことを指す。
 とはいえ、こうした対比(というよりも対立)は本作に限った話ではなく、「努力・友情・勝利」を標榜する「週刊少年ジャンプ」では古くから、そして今現在も各作品内での扱い方という形をとって議論されている問題だ。上記のお題目からすれば本人の努力によって勝利を掴む展開が王道と云えそうだが、遺伝的な要因でキャラクターの能力=戦いの勝敗の行方がほぼ決定する例は多い。
 本作でもご多分に漏れず、特に終盤では血脈がものを言う場面が目立つ。父親という存在が、物語に大きく関わっているせいでもあろう。しかし、連載終了を言い渡され余裕がなかったであろう物語の最終局において、作者はこの対立に1つの解答を提示して見せる。
 もちろん異論はあるだろう。しかし恐らくは若年の読者のため、自身の信条を差し出したという誠実さには拍手を送りたい。それはエピローグでの登場人物の温かな在り様からも確信できるところだ。

*書誌情報*
☆通常版…新書判(17.4 x 11.4cm)、全17巻。絶版。

☆文庫版…文庫判(15.2 x 10.6cm)、全10巻。電子書籍化済み。

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