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第93夜 仮想ロボバトルと男の娘の惑い…『バーコードファイター

      2013/09/12

「そのゴーグルを通して見た物は、ゲーム世界での現実なの。/烈ちゃんは今、パイロットスーツに身を包んで愛機のコクピットに座る……、/バーコードファイターなのヨ!」


バーコードファイター (上) (fukkan.com)

『バーコードファイター』小野敏洋 作、小学館『月刊コロコロコミック』掲載(1992年3月~1994年6月)

 お調子者の虎堂烈(こどう・れつ)はゲーム好きの11歳。ある日、行きつけのゲーセン「ドラゴン」に向かうと、フロアはガラガラ。聞けば、客はみんな屋上に新設された「ゲームドーム」に行っているという。
 屋上で烈が見たのは、ドーム内の天井全体がスクリーンとなった超大型体感ゲームだった。ゲーム名は「バーコードファイター」。自分が見つけてきたバーコードをマシンに入力し、その情報から生成される仮想オリジナルロボを操縦して戦う、バトルシミュレーターゲームだ。一足先にプレイしていた幼馴染の有栖川桜(ありすがわ・さくら)に勧められ初プレイした烈だが、一撃で敗退してしまう。対戦相手の掛須巧(かけす・たくみ)の挑発を受けた烈は、バーコード探しを経て愛機ダッシュビートルを戦士登録する。
 掛須やアメリカ人戦士のスティーブ・セコイア、格闘戦が得意な清白彩(すずしろ・あや)、電話回線を介して戦う日本全国の戦士達と烈の、ゆるいノリながらも真剣なバーコードバトルは続く。しかし、いつしか物語はバーコードをめぐる陰謀との戦いに遷移していく。

ホビー漫画からの逸脱
 バーコードの情報から生成された戦士を戦わせるエポック社の電子ゲーム機「バーコードバトラー」が発売されたのは、自分が小学生だった1991年だ。本作はそのメディアミックス作品として、少年向けホビー漫画の牙城である『月刊コロコロコミック』にて連載されていた。
 興味をそそられたものの、結局自分は「バーコードバトラー」を購入しなかった。当時としてもそこまで進歩的とは云えないモノクロ液晶画面で(モノクロ液晶の大ヒット携帯用ゲームハード「ゲームボーイ」は89年に発売)、バーコードから戦士を作って戦わせるという単機能モノなところがネックに感じられたからだ。しかし、本作はそうしたオリジナルのビジュアルの貧弱さを補いつつ、明るく楽しげな世界観も相まって自分を惹きつけた。
 作者の小野敏洋は、これ以前にも『ミニ四駆快速マニュアル』シリーズなどで漫画やイラストを手がけており(本作のゲームドームスタッフである権田原夏樹(ごんだはら・なつき)も登場している)、その経験を生かしてか、お気楽な雰囲気でありながらも、人物もメカも当時の少年向け作品としてはスタイリッシュにまとめている。ちなみに別名義の成年向け漫画でもその特殊性で知られた描き手だ(後述)。
 強いバーコード探しと、それを用いての仮想空間でのロボバトルが本作序盤の構成要素だが、段々と大規模なSF・ファンタジー的な展開をみせるようになる(その内の古代文明がらみのエピソードは、本作の少し前に同じ『コロコロ』で掲載されていたミニ四駆漫画、徳田ザウルス『ダッシュ!四駆郎』の終盤を彷彿とさせるが、何らかの繋がりがあるのだろうか)。これを単なるストーリー上のテコ入れと取ることもできようが、萩原一至『BASTARD!! -暗黒の破壊神-』やCLAMPの諸作品など、90年代前半に一部で流行した、“個人レベルでの行為が世界レベルの命運を決定する”という、後のセカイ系の萌しとも云える動きの一つと見ることもできるだろう。成功しているか否かは措くとして、単なるホビー漫画の枠を超えた試みであったに違いない。

彼女の物語
 本作を語るにあたり、やはり避けて通れないのが精神的にも外面的にも女子としてふるまう男子、今風に云えば「男の娘」についてだろう。ほぼ打ち切りに等しい幕切れに終わった本作だが、打ち切り後しばらくは、その理由が「男の娘」を描いたため(関連して、過激な性的描写があったため)だという噂が囁かれたという(復刊版のあとがき漫画では否定されている)。作者は本作の数年後に、その筋の成年向け漫画によって局所的な人気を博すことになるが、1992年という時代に、しかも少年誌でその萌芽を描いたということには、是非はともかく、言葉通り前衛的だったと云えよう。
 “女の子になりたい男の子”という存在は、奇しくもバーチャルリアリティが実現している作品世界とリンクする。結果的に本作の最終章となった、「男の娘」を仮想世界から救い出す一編は象徴的だ。もはやバーコードで生成されるロボがただの道具扱いになっているが、彼女(敢えてそう記そう)の物語という視点からは中心的なエピソードと云えよう。バーチャル世界に身を浸しながらも、ある人物の心からの包容力ある言葉を受けた彼女の表情を見ると、性別にこだわって自分らしさを抑圧することの悲惨さを、真面目に考える。いまだに物議を醸すこともある本作だが、彼女の物語がひとまず区切りが付くまで綴られたことは僥倖だ。

*書誌情報*
 連載当時のてんとう虫コミックス版は絶版。2004年に「復刊ドットコム」を介してブッキングより上下2巻組版が発売された。こちらは現在でもamazon等で入手可能である。

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