第85夜 甘口な、けれど薄荷も効いた日々…『ハチミツとクローバー』 | 漫画のレビュー&随想 | 100夜100漫

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第85夜 甘口な、けれど薄荷も効いた日々…『ハチミツとクローバー

      2013/09/13

「うまくいかなかった恋に意味はあるのかって/消えていってしまうものは無かったものと同じなのかって――」


ハチミツとクローバー 10 (クイーンズコミックスDIGITAL)

『ハチミツとクローバー』羽海野チカ 作、宝島社『CUTiEcomic』→集英社『ヤングユー』→『コーラス』掲載(2000年6月~2006年7月)

 美大生の竹本祐太(たけもと・ゆうた)は、先輩の森田忍(もりた・しのぶ)や真山巧(まやま・たくみ)らとともに、貧乏アパート住まいながら大学生活を楽しんでいた。ある日、美大教師の花本修司(はなもと・しゅうじ)から、彼の親戚にあたる少女、花本はぐみを紹介され、祐太は一目惚れする。しかし、はぐみはその天性の才能のゆえか、同じく天賦の才を持ち合わせる森田と次第に接近していく。
 一方、一途に真山を慕う山田あゆみはその想いを募らせるが、真山の恋情はアルバイト先のデザイン事務所の経営者で修司の旧友でもある原田理花(はらだ・りか)に向けられていた。その理花の気持ちは、いまだ亡き夫のものであることを知りつつも。
 それぞれがそれぞれの想いを抱き、交錯させ、未来を見つける。そうして時が過ぎていく――。

恋と成長
 昔、数か月だけ付き合った人がいた。自分が無職で、この先なにをしたらいいのか分からなかった時のことだ(今もそうかもしれないが)。本当のところ、付き合ったといえるのかどうか、それも定かではないが、本作の初読は、その人に借りて読んだのだ。当事はまだ単行本が8巻までしか出ておらず、9巻を読む前に疎遠になってしまった。――と、そんな思い出語りをつい書かせる力を持った作品である。
 青春を描く時に、恋愛を描くのはもちろん常套手段と云っていいが、それと同じ位、成長を描くことは重要であろう。本作は両者の均整が非常によく取れている。というか、“自分が何なのか分からないために、好きな人に焦がれるばかりで、具体的には何もできない”というように、両者が有機的に絡み合っている。それが読者の経験に痛烈に語りかけ、響くのだ。本作では天才肌のはぐみにスポットが当たることも多いが、そういう意味では、やはり竹本が主人公といっていい。他の登場人物もそれぞれの葛藤を抱えているが、凡人がどう社会や仕事や、ようするに世の中に向き合っていくかを痛々しくも爽やかに描いている。

ポスト青春ストーリー
 同時に、美大生らを見つめる、彼らより少しだけ大人の視点を導入したことが、本作の独自性を高めている。はぐみの保護者代わりで竹本らの先生に当たる修司、その友人で真山が想いを寄せる理花、その後の真山の就職先の先輩社員たちなど、“少しだけ大人”の世代に属する人物は多い。
 彼らの1人が作中で吐露してもいるが、彼らにとって、竹本たちの世代は“通ってきた道”なのだ。自分達がかつてぶつかり、困惑の末、何とか折り合いをつけたことを、「まだ片付いていないよ」とばかりに竹本たちがもう一度鼻先に突き付けてくるものに、彼らがどう応じるか、ということも、本作の魅力となっている。
 この点を以って、青春ストーリーと云う以上に、ポスト青春ストーリーと云ってもいいのかもしれない。

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