漫画のレビュー&随想 | 100夜100漫

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第81夜 ゲームと世界の特異点…『PSYCHO+サイコプラス)』

      2014/01/04

「知らないの?/この緑色はね……/悪魔の色なんだよ!!」


藤崎竜作品集 1 サイコプラス (集英社文庫―コミック版) (集英社文庫 ふ 26-1)

『PSYCHO+(サイコプラス)』藤崎竜 作、集英社『週刊少年ジャンプ』掲載(1992年11月~1993年2月)

 もって生まれた緑色の瞳と髪という特異体質のせいで、日陰者の生活を余儀なくされていたゲーム好きの少年、綿貫緑丸(わたぬき・みどりまる)は、中古ゲーム屋のワゴンセールで見知らぬゲームを手に入れる。『PSYCHO+』と題されたそれは、プレイヤーの超能力を開花させるゲームだった。
 なぜか緑丸にしかプレイできないこのゲームを巡り、友人達や、ゲーマーの女の子、水の森雪乃(みずのもり・ゆきの)との日々は続く。騒動に巻き込まれながらも緑丸はステージクリアを重ねていくが、それは、やがて訪れる“緑色”の者の運命の、ほんの序章でしかなかった――。

箱庭的世界で
 きっと作者は理系なのだろう。と思って調べてみたら、やはり工学系の専門学校を出ておられた。
 初期短編集『WORLDS』にせよ、中国古典をSF的に解釈し、アニメ化もされた代表作『封神演義』であっても、この作者の作品には理系的なものが充ちている。それは『宙のまにまに』(第42夜)のような、文系から見た理系的モチーフの魅力ではなく、純粋に理系の人間が造り上げた世界の美しさだ。箱庭的に幾つもの特殊な世界を作り、ストーリーという実験をしているイメージ。前出の短編集(収録された表題作)が「WORLDS」なのは、まさに命名の妙と云っていいだろう。
 こうした作者独自の世界観は本作でも健在である。今でいうPSPのような携帯ゲームをモチーフにし、少年漫画的なサスペンス要素や恋愛要素を加味しつつも、やはり“世界がどのように成り立っているか”の解釈という、作者の作品群に通底したSF的要素を中心に据えている。線画イラスト的な画風とも相まって、他ではなかなか味わえない不可思議な魅力を堪能できる作品だ。

ゲーム・ゲーム・ゲーム
 本作ではタイトル通り『PSYCHO+』というゲームソフトがキーとなる。別にゲームソフトでなくとも条件を満たした小道具ならば何でもよさそうなものだが、あの時代、ゲームが最も適切だったのだと思う。
 本作の連載開始は1992年。前年にはゲームメーカーであるカプコンの“ストⅡ”こと『ストリートファイターⅡ』が人気となり、ここから百花繚乱たる格闘ゲーム時代が始まった。一方で『ドラクエ』『FF』に代表されるRPGも変わらぬ人気を集め、当時の主流ゲームハードであった任天堂の「スーパーファミコン」や、NEC「PCエンジン」などをプラットホームに、定番だけでなく斬新な作品も多くリリースされた。一部の書店では複数のゲーム雑誌が平積みされ、小野不由美や久美沙織といった作家がゲームについてのエッセイやノベライズを手がけた。つまり、ゲームというものが、恐らく現在よりももっと力を持っている時代だったのだ。
 作中には、『PSYCHO+』以外にも幾つかのゲームが登場する。20年が経過した今でも古びないほどに先取的なゲームハードやコンピュータセキュリティの描写とともに、それらは技術発展の魅力と同時に幾ばくかの影を落としている。疑似体験による至上の悦楽と、その向こうの闇。コンピューターゲーム全盛時代に、少年誌でさりげなくもそうしたテーマを扱った点は、作品テーマのユニークさともあいまって貴重である。

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