第63夜 街をさまよう、まだ見ぬ郷愁の味を求めて…『孤独のグルメ』 | 漫画のレビュー&随想 | 100夜100漫

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第63夜 街をさまよう、まだ見ぬ郷愁の味を求めて…『孤独のグルメ

      2013/10/08

「モノを食べる時はね/誰にも邪魔されず/自由で なんというか救われてなきゃあ/ダメなんだ」


孤独のグルメ 【新装版】

『孤独のグルメ』久住昌之 原作 谷口ジロー 作画、扶桑社『月刊PANJA』掲載(1994年8月~1996年4月) ※2008年1月より扶桑社『SPA!』にて不定期掲載

 井之頭五郎(いのがしら・ごろう)は雑貨の輸入業を個人で営む貿易商だ。仕事で訪れる街先で、いつも空腹を抱えては逍遥(しょうよう)している。入る店は、決してきらびやかでない、どこか懐かしい感じの個人店ばかり。そこで出会う料理を、モノローグと共に黙々とかき込んでいく。時には店にも入らず買い食いをすることも。
 街と人と記憶と。その時々の感傷を織り交ぜながら、五郎の独り飯の日々は続く。

おじさん必携
 本作を知ったのは、社会人になって4~5年目の時だった。その時の部長が結構な漫画好きで、彼の席の後ろにある本棚の一角を“部長文庫”として部下に開放していた(なんという職場だ)。ざっとその棚を眺めて、最初に手に取ったのが本作だったというわけだ。部長に「読んでみ」と云われ、帰りの電車で読んだ。主人公の自由さ、モノローグの素朴さが、するりと沁み込むような感覚で、読了してももう一度気になったエピソードを再読したくなった。
 描かれる店の多くは、初めて入る時にためらいが先に立ちそうな“個人でやっている店”だ。昔ながら、と云ってもいいのかもしれない。主人公の五郎は個人輸入という生業の故か、そうしたところにためらい無く入っていき、優雅な時間を過ごす。さながら良い商品を求めて異国の路地に立ち入るようでもある。料理だけでなく、その店の来歴や佇まいにまで目配りする視線は、あまたあるグルメ漫画というよりも紀行漫画に分類したい気もする。
 部長もかなりお気に入りのようで、平日休みを取ったと思ったら、携帯に電話がかかってきて、本作の第4話に出てくる、赤羽の朝から飲める店にいると自慢されたこともある。名前を少し変えてあるものの実在の店が載っているため、本作をグルメガイド的に使っている人は少なくないようで、ネット上で探訪記的な記事を散見できる。

自由で孤独な場末の店で
 五郎は自由を愛し、店も持たずに個人で商売をしているので比較的自由な時間が多い。そこで街を歩いては知らない店に飛び込むのだが、昼日中にあまり出歩けない自分にとっては、それがこの上なく羨ましい。その上、幾つかのロマンスを知っていて、古武術が使える筋肉質、と、男子は一度は妄想する理想のご身分である。下戸で、ほぼ必ず被ったメニューを注文してしまうところも、ご愛嬌と思えてしまう。彼のキャラクターも、本作の衰えない魅力の一端を担っていると云えるだろう。この主人公のような食事をしたいと常々思っている人は、特に組織に所属している会社員に多いのではないだろうか。
 冒頭に書いた部長は、その2年後ぐらいにいなくなってしまったが、彼のように自由と孤独と場末の店(というか、レトロな個人店というべきか)を愛すおじさんが多くいるだろうと思うと、日々歳をとっていく自分もそんなに嫌にならないものだ。
 話の構成上、今も断続的に五郎の独り飯は続いているようだ。ほぼオリジナルエピソードのテレビドラマの評判も悪くなかったようであるし、今後もゆるゆると、彼のモノローグを拝読したい。

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