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第52夜 誰も彼も汗にまみれて一生懸命にバカだった…『柔道部物語

      2013/09/13

「「「俺ってストロングだぜぇ~!」」」


柔道部物語(1): 1 (ヤンマガKCスペシャル (62))

『柔道部物語』小林まこと 作、講談社『週刊ヤングマガジン』掲載(1985年9月~1991年7月)

 地元の岬商業高校に入学した寿司屋の息子、三五十五(さんご・じゅうご)は、中学では吹奏楽部でサックスを吹き、成績はトップクラスという典型的な文科系男子。そんな彼が先輩の怪しい勧誘(「髪型自由、練習も少ない、女の子にモテるし、就職もいいし、強くなれる」)に騙されて柔道部に仮入部する。体育系漫画のご多分に漏れず、いきなり強烈なシゴキにあう1年生。髪型は丸坊主(五厘刈り)で変な挨拶を強要され、そんなことをやっているので勿論モテるわけがない(とはいえ、三五には中学時代のガールフレンドがいるのだが)。
 岬商柔道部はそこそこ強く、「強くなれる」という宣伝文句だけは本当だったと三五が思い出した頃、他校との合同合宿が催される。三五たちは強豪校とのレベルの違いを見せ付けられ、「もっと強くなりたい」という思いが芽生え始める――。

真っ当さと可笑しみのバランス
 実は中学生の頃、不真面目な柔道部員だったのだが、部室の片隅に全巻置かれていたのがこの作品だった。練習にはあまり出ず、たまに出た時には汗臭い部室でこれを読み、まさに見よう見まねで背負い投げなどを試してみたりしていた。
 上に書いた概要だけでは“辛く苦しいスポ根漫画”と取られそうだが、作者が作者なので『What’s Michael?』や『一二の三四郎』のように随所にギャグが散りばめられた作風であることは云うまでもない。もちろん基本は真っ当な柔道漫画なのだが、その真っ当さとギャグとのバランスが小気味よいのだ。
 例えば厳しい練習中、手抜きのテクニックに目覚めた三五の同級生がいかに手を抜いているかの描写があったり、本気になった部員たちを指導する元メダリストの顧問の先生の最初の教えが「俺ってストロングだぜ~~!」「俺はバカだ!」などと自己暗示をかけることだったりと、練習の厳しさと、その傍らにあるバカらしさがフラットに扱われているのである。この辺り、実際に新潟の高校で柔道部だった作者の実体験に取材しているのだろう。

“あの頃”の体育会系部活動
 今になって読むと、上記のような部活潜入ルポ的なくだりは、昭和の時代に地方高校の体育会系部活で、どのような価値観でどのような練習が行われ、そこにどんな汗と涙や自嘲混じりの笑いがあったのかを留めていてくれるようにも思える。ことにスタイリッシュさが追求され尽くされた現在、これほど男だらけで、武道場の汗とエ○ーサ○ンパスが混交した芳香が匂ってくるような作品は、ちょっとないのではないか(『からん』が一番近そうだが、幸か不幸か同作は女子柔道)。そういう意味では失われつつある昭和的価値観の資料として貴重と云えるかもしれない。もちろん、言わずもがなのことだが、三五を始めとした柔道部員たちの成長物語として、手に汗を握って大いに楽しめる良作である。

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