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第40夜 神職だって、お金は欲しいし恋もしたい…『神社のススメ

      2013/10/08

「神社は宗教だがビジネスなんです/そしてアミューズメントだ」


神社のススメ(1): 1 (アフタヌーンKC)

『神社のススメ』田中ユキ 作、講談社『月刊アフタヌーン』掲載(2004年4月~2006年6月)

 大神社の宮司の次男、里見信二郎(さとみ・しんじろう)。実家の神社は兄に任せ、自分は好きな舞を仕事にしようとしていた彼だったが、兄が失踪したために神職に付かざるを得なくなってしまった。正式な神職になるために、信二郎は2年間の研修を受けねばならず、ツテを頼って観光地としてそこそこ流行っている神下神社で出仕(しゅっし;普通の会社でいう平社員)として働き始める。
 折しも神下神社には4人の巫女が奉職中。その中の1人、アルバイトの女子高生巫女、真鍋千穂(まなべ・ちほ)に信二郎は惚れてしまい、千穂もまんざらでもない様子。一方、権宮司(ごんぐうじ;副社長相当)の娘で巫女の新田了子(にった・りょうこ)も、信二郎に密かな想いをつのらせる。
 しかし、そんな人間模様とは無関係に神社の仕事はやってくる。七五三に年末年始、神社見学や巫女マニアへの対応と、一般企業と同じ社会人として頑張る“お宮の人間”たちの仕事と恋の物語。

当世お宮事情
 自分の従姉妹に当たる女子大生(当時)が、地元の神社で巫女のアルバイトをしているという話を聞いたのはもう3年は前になるだろう。憧れの職業ではあるものの、やはりなかなかに苦労の多い仕事だと云っていた。本作の作者の田中ユキも、「駆け出しの時はマンガ一本では食べていけないので、腰掛けのつもりで」実際に巫女として働いていたという。その経験が本作に結実したということのようである。従って、我々が何気なく参拝している神社の裏側を、かなり精緻に描いていると云っていいだろう。
 特定の業界の裏側を描き出す、いわば“お仕事漫画”は『ソムリエ』などが表れてくる前から長い歴史を持っていると推察するが、現在の神社の業務を描いた作品は珍しい。そこには、スーツを着て外回りをするような現代人としての側面と、古式に則って儀式を進める伝統文化継承者としての側面の同居が自然に描かれており興味深い。

「吾は一日に千五百の産屋を建てん」
 企画としての本作の出発点はあくまでお仕事/業界としての神社(宗教法人)だとは思うが、やがて主人公を含む若者達の恋愛模様がクローズアップされていく。これを残念と感じる読者もいるだろう。“神社のお仕事”漫画としての側面を、もっと見せて欲しいという不満である。
 それも一理あるとは思うが、若者達のくっ付いた離れたを見るのも、本作の興趣からそんなに的外れではないと自分は思う。元来神道は寛容を旨としている。特に性的なものについては、儒教的、仏教的な道徳観念とはかなり異なっていると云えよう。人間の繁栄こそは古事記においてイザナギが千引岩を隔てた妻イザナミに誓った言葉でもあるではないか。実際、寺社を背景に展開する恋愛模様はなかなかに素敵だ。お宮に坐す神様を奉りながら、人と人とが想いあい、すれ違い、睦みあっていく姿を描くのは、それはそれで神道的なのだと考える。

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