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第38夜 杯を満たす葡萄の香に、人生の喜怒哀楽は映る…『ソムリエ

      2013/10/08

「本当に正しい組合せというのは/料理とワインの間ではなく/ワインとお客様の間にあるんじゃないかな」


ソムリエ 1 (ヤングジャンプコミックスDIGITAL)

『ソムリエ』城アラキ 原作、甲斐谷忍 漫画、堀賢一 監修、集英社『MANGAオールマン』掲載(1996年1月~1999年6月)

 パリで暮らす日本人、佐竹城(さたけ・じょう)。天才的なテイスティング能力と卓越した接客センスを持ち合わせたソムリエである。遅刻の絶えないルーズな性格ではあるが、料理にあうワインから人生の一大事まで、ゲスト達、時にはスタッフ達の人生を汲み取り、彼は最大限のサービスを施す。
 数多のビンテージを自由自在にティスティングする彼にも、探している一杯のワインがある。それは、彼の継母だったフランス人女性が飲ませてくれた、人生最初のワイン。その味を探しながらも、ソムリエは今日も心を込めてサーヴする。

最高の一杯を
 ワインは特殊な酒だと思う。ギリシア神話にワインの神が出てくるし、キリスト教の儀式に使われることもある。哲学者のカントも好きだったようだ。自分ももともと嫌いではないが、本作を読むと無性に飲みたくなるので困る。
 作中では実在のワインについて、さながら実際にソムリエを前にしているように詳細を教えてくれている。物語の前半はフランス、後半は日本を舞台にしているが、カリフォルニアやチリなど欧州以外のワインも扱っている点も嬉しい。それらのワインが、基本的に1話完結のエピソードのモチーフという形で登場し、主人公たちのもてなし方のセンスとも相まってゲスト達に深い感銘を与える。原作者のポリシーなのだろう、出てくるのが高級なビンテージものだけではない点が、むしろ物語に深みを与えている。ワインは、必ずしも高級・低級といった物差しでは計れず、飲む者の経験や志向、シチュエーションによって“最高の一杯”が変わる、という考え方は賛同できる(ワインに限らず何事であっても、漫画を読むのだってそうなのだ)。主人公の佐竹にしても気取りがなく、相応の秘密はあるものの、普通で気のいい兄ちゃんというキャラクターが嬉しい。
 そんな機微を穿った物語を簡略かつスタイリッシュな画風でやられたら、こっちだって安いワインを求めて深夜のコンビニに走ってしまうというものだ。

時代とワインと漫画
 ワインというとバブルの頃をイメージするが、日本ではこれまで6~7回ほどワインブームが到来しており、バブルの頃が第4次に当たるらしい(参考までに、第1次は東京オリンピックから大阪万博にかけて)。本作の連載開始は1996年。低価格ワインや医学的研究によって健康によいことが明らかになった第5次ワインブームの文脈を捉えて企まれたものだろう。てっきりバブルの頃の作品と思っていたのだが、調べてみて意外だった。その事実を考えれば、上述したような必ずしもビンテージものだけを扱わず、飲む者の心に配慮したサービスを行うという主人公の態度とプロ意識とは、バブル期のメンタリティとは少し違うということにも納得だ。
 本作の後にも同じ原作・監修者による『瞬のワイン』『ソムリエール』や、『神の雫』など幾つかのワイン漫画が発表されており、フランスでも高く評価されている作品もあるようだ。そうした諸作品の先駆となったと云える本作はやはり大きな影響力を持っているだろう。1話1話のエピソードを大切に味わうように読んでもらいたい。

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