第28夜 描かれた円の中は、少女の心を映す混沌…『魔方陣グルグル』 | 漫画のレビュー&随想 | 100夜100漫

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第28夜 描かれた円の中は、少女の心を映す混沌…『魔方陣グルグル

      2015/03/14

「これからあたしたちいよいよ世界を冒険するのね!/あたし世界中の町を見てみたいな/いろんな人に会ったり楽しい事もいっぱい…/どんな世界が待っているのかしら……/……ゆうしゃさまムーンストーンをつかうのよ……」「何考えてんだよ/なんだよムーンストーンって」


魔法陣グルグル (1) (ガンガンコミックス)

『魔方陣グルグル』衛藤ヒロユキ 作、エニックス『月刊少年ガンガン』掲載(1992年7月~2003年8月)

 魔王のいるファンタジックな時代。ジェムジャム大陸の小村、ジミナ村。「グルグル様」という守り神の伝説が残るこの辺境の地にも、大陸を納めるコーダイ国王による勇者募集の立て札が立てられた。勇者マニアのバドは、息子ニケを勇者として旅立たせることを決める。ラクして暮らしたいニケは旅立ちを渋るが、父母の熱心過ぎる説得についに観念する。
 旅立ちにあたり、しきたりに従って村の古老、魔法オババの家を訪れたニケは、オババから「グルグル」の真の意味を教えられる。それは、ミグミグ族という民族が見出した、魔方陣を描きその図形の持つ力を引き出す魔法のことだった。オババはニケにそれを授けると告げ、13年前にミグミグ族の生き残りから託され秘して育ててきた、民族最後の生き残りの少女、ククリを紹介する。かくして、勇者(?)ニケとグルグル使いククリの2人は、魔王を倒し、世界を救う旅に出る。
 父親に多少鍛えられたとはいえ基本的にやる気のないニケと、物覚えが極端に悪く、グルグルを失敗してはヘンなものを召喚してしまう上に妄想癖のあるククリ。不安この上ない2人だったが、大ボケを繰り返しながらも多くの人と出会い、戦いをくぐり抜け、修行を重ねて成長する。そんな中、いつしかククリはニケに恋心を抱く。そのときめきこそが、グルグル最強の魔法を復活させる手がかりともなるものだった。そうこうしているうちにも魔王ギリの侵攻は進む――。

陣の中の混沌
 初期の『ガンガン』には、先立ってエニックスの人気漫画シリーズだった『ドラゴンクエスト4コママンガ劇場』出身の作家が多く、本作の作者、衛藤ヒロユキもその例に漏れない。その出自の故か、本作もまたドラクエ的な世界観を下敷きにしたストーリーギャグ漫画だが、話が進むごとにドラクエ的な色合いは薄らいでいく。逆に割合を増してくるのは、コンピューターRPG以前を思わせる民間伝承的メルヘン、ハウスに代表されるダンスミュージック、そしてオヤジと褌(ふんどし)といった作者独自の世界観だ。
 まるで統一感のないそれぞれの要素が変な化学反応を起こし、“グルグル的”としか云いようのない空気を創り出している。それは作者の無意識を投影した夢想のようでもあるし、「あらゆる音楽の融合体」と形容されるハウスミュージックのようでもある。作中、ミグミグ族の残した魔法グルグルは色々なものが混淆した“よくわからないもの”として描かれるが、作品世界自体が既にそうなのだ。

乙女心の君
 そうしたカオスの世界にはしかし、確たる中心がある。他ならぬククリという1人の少女だ。全ては彼女に収斂する。表面上はドラクエ風世界観でオヤジや褌が乱舞するギャグ漫画ながら、その1つ奥にメルヘン的要素と現代音楽のモチーフが融合された物語があり、更にその最深奥に、ある女の子の、瑞々しく愛らしい、そして時に過激な乙女心がある。この極めて特異な構造を、少年漫画としてつづり、10年かけて最後まで描き切った作者は、まさに“偉大なるグルグル使い”と云えるだろう。
 後日譚として、作者は何を血迷ったか(あるいはそれが平常運転なのか)作中で最も有名なオヤジキャラ“キタキタおやじ”をスピンオフさせてハラハラさせられたが、現在は正伝の続編が連載中である。本作を堪能したら、彼らのその後を追うのもよいだろう。

*書誌情報*
☆通常版…新書判(17.6 x 11.4cm)、全16巻。電子書籍化済み。

☆新装版…B6判(18.5 x 13cm)、全8巻。

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