第196夜 世界を憂う躁状態に、笑って唖然…『エクセル・サーガ』 | 漫画のレビュー&随想 | 100夜100漫

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第196夜 世界を憂う躁状態に、笑って唖然…『エクセル・サーガ

      2015/02/01

「出たな権力の手先!」「……いいけどよ」「ええと!/とりあえず名を名乗れっ」「個人情報は答えられないわ/市役所の方から来た者よ」「ほんに胡散臭いな/わしら」


エクセル・サーガ 1 (ヤングキングコミックス)

『エクセル・サーガ』六道神士 作、少年画報社『ヤングキング アワーズ』掲載(1996年6月~2011年7月)

 F県F市。腐敗した世界を是正すべく、世界征服…のための一国征服…を無理なく遂行するために、まずは市街征服をもくろむ秘密組織、理想推進機関アクロス の地下秘密基地はここにあった。
 といっても当初のメンバーは、遠大な理想を玄妙な言葉で表明する総帥イルパラッツォと、やたらハイテンションなだけの女性幹部兼参謀兼戦闘員兼トイレ掃除のエクセルの2人だけ。組織増強のために新たに選出される女子構成員ハイアットとエルガーラの2人も、かたや異様に病弱、かたや思考が口に出過ぎと秘密組織としてはやや不安な人員だ。
 それでも自称“ナンバー2”の自負のもと、活動費獲得(バイト)や生活費捻出(バイト)に潜伏任務と、エクセルの奮闘(というか空回り?)は続く。それはもう、緊急食糧として確保された白犬メンチが心労で自暴自棄になるほどに。
 一方、政財界に顔が利く謎の実力者、蒲腐(かばぷ)博士は、アクロスの暗躍を何となく察知、市役所内に市街環境安全保障局を設立する。普通の地方公務員と思って新規採用に応募した渡辺通(わたなべ・とおる)、岩田紀國(いわた・のりくに)、住吉大丸(すみよし・だいまる)、松屋美咲(まつや・みさき)の4人は、自分たちの仕事が「正義の戦隊」だと聞いて大困惑(一部しない人もいるけど)。が、既に秘密を知った彼らには拒否権はなく。オーバーテクノロジーによる武装や、天才科学者だが女児をこよなく愛する四王寺五条(しおうじ・ごじょう)の手によるアンドロイド六本松(ろっぽんまつ)を受け入れつつ、職務に臨むのだった。
 かくして、極めて行き当たりばったりに秘密組織と正義の戦隊によるローカルな攻防が始まる。それは、イルパラッツォと蒲腐という双方の首魁をめぐる永い物語の最終章でもあるのだった――。

割と社会の闇を抉り気味
 「♪へっぽーこーじっけんア~ニ~メ エクセ~ル~サーぁーガぁ~」という気の抜けるアカペラによる番宣がテレビから流れていた頃、自分は疲弊していた。大学の自治会(高校の生徒会のようなもの)の仕事を押し付けられ、組織の下っ端として書類作りだの折衝だので汲々としていたからだ。
 別に何かの志に燃えていたわけでもなく、ずるずると2年間も続けさせられた割に、ほとんど実になる経験ではなかったように思う。ただ「“失敗は既に明らかなのに、面子だけで廃止にならない事業”って、本当にあるんだなあ」という感想を抱いたことだけは、有益だったかのもしれないけれど。
 そんな日々、自治会室で深夜まで嫌な汗をかいてアパートに帰ってきた自分のささやかな清涼剤の1つが、当時まさかのアニメ化が成ったこの漫画だったというわけだ。アニメにも表れているハイパーテンションで綴られる、久米田康二の作品(第36夜など)とも似て非なる不穏な風刺は、その頃の自分の気分によく沿っていたと思う。
 “正義の戦隊と悪の組織”という構図で、悪側の主観とした例は『はじめてのあく』(第95夜)など今となっては珍しくない。ただ、この漫画がそういう枠に当てはまるかというと、ちょっと違う気もする。両者が直接あいまみえるよりも、そのすれ違いっぷり、あるいは各陣営でのドタバタぶりが、紙幅の大部分を占めるからだ。特に序盤においては、アクロス基地内でのコント的な一幕(ほぼ必ず、エクセルは懲罰として落とし穴に落とされる)+エクセル達のバイト先での騒動や、市街環境安全保障局側での一方通行気味なラブコメ風味だったり博士への不信だったり青年たちの日常だったりという個別なエピソードが主体である。
 主人公のハイテンションに引っ張られ、全体的に躁状態な空気が充満するこうしたエピソード群は、なにかと本筋から脱線しがちで、舞台が福岡(作中は全てF市となっているが明らかだろう)という点ともあいまって、ご当地系なお気楽ギャグ漫画という印象を強く受ける。しかし、にもかかわらず、改めて振り返ってみれば、そんなギャグ的展開の中、エクセルたちのバイト先だったり潜入先などとして医療・エネルギー・教育・政治・経済・宗教etcといった現場が登場する様は、思いのほか真っ当に市街征服のステップを踏んでいるようにも見える。そこで抉り出される現実社会の闇と相似な黒いネタたちは、イルパラッツォの云う「世界は腐敗している」という言説を確かに補強しているのだ。

蚊帳の外からロケットキック
 しかし、この漫画はそれだけでは終わらない。あるいはそれだけで終わった方がまとまりとしては良かったのかもしれないが、どっこい、そんな枠など壊しにかかるのだ。
 それまでも断片的に示されるが、とりわけ中盤以降、両陣営のトップであるイルパラッツォや蒲腐たちが持つ超科学的な技術の出どころを端緒として、物語は一転、SF的色合いを強めていく。この展開に、それぞれ下っ端であるところのエクセル・ハイアット・エルガーラ、渡辺・住吉・松屋らは翻弄され続けることになる。そして、彼女・彼らと同様に、恐らく読者たちも弄ばれることになるだろう。殊にラストにおいては、読む人によっては「掟破り」という感想を抱くのも、やむなしだとは思う。
 が、しかし、その“蚊帳の外”感が独特な味であることもまた確かだ。何より、そういう展開だからこそ下っ端たちの奮闘が、滑稽に見えつつも、他方では格好よく映えるのだ。特に、クールビューティーを装いつつも徹底し切れない松屋の現場リーダーぶりは、ボケ役だらけのこの漫画そのものを牽引する役割を担っていて、頼もしくも涙ぐましい。
 そして、濃いキャラ続出で端に追いやられつつも、「ハイル・イルパラッツォ」を叫ぶエクセルが、やはり題名に違わずこの漫画の主人公だ。上の込み入った事情なんて知ったこっちゃなく暴れ回る、これは確かに彼女のサーガであると云っていい。
 大してやりたくもない下っ端仕事で屈託した自分が、この漫画に感じた第一の魅力は、上に述べたように黒い風刺ネタによってだった。しかし、ただそれだけでなく、蚊帳の外からロケットキックをかますようなエクセルを始めとする、この漫画の下っ端たちのタフさに、勇気付けられた部分もあったのかもしれない、と今更ながら思う。
 雑誌掲載時と単行本でラストが大きく異なる漫画だが、内容的にも入手難度の面からも、自分は単行本のものを推す。爆風のような展開の末の得体のしれない爽やかさが漂うラストは素直に気持ちよい。

*書誌情報*
☆通常版…B6判(18 x 12.8cm)、全27巻。電子書籍化済。
 ※雑誌掲載時と単行本では最終話が大きく異なる。雑誌版の入手は困難。

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