第189夜 霊との日々、それが“少年”を了えさせる…『花田少年史』 | 漫画のレビュー&随想 | 100夜100漫

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第189夜 霊との日々、それが“少年”を了えさせる…『花田少年史

      2014/11/20

「いいからちんちんしまえよ/いい大人が・・・・!/おばけだからってナニしてもいいと思ったら大間違いだぞ!」「へへへ―――/おいちゃんは裸がいち~~ばん好きなの!」


花田少年史(1)

『花田少年史』一色まこと 作、講談社『ミスターマガジン』掲載(1993年9月~1995年8月)、のち『ヤングマガジンアッパーズ 増刊 花田少年史総集編4』(2003年10月)にて番外編発表

 1970年代の田舎。小学3年生の花田一路(はなだ・いちろ)は近所でも有名な悪ガキとして恐れられていた。
 ある日、一路はいつものように悪戯を叱る母から逃げようとして、オート三輪に跳ね飛ばされてしまう。幸いにも五体満足で回復したが、頭を縫うために丸坊主、後頭部には9針もの縫い痕が残ることに。そして、なぜかこの時から、一路には死んだ人の姿――すなわちオバケが視えて、なおかつ言葉を交わすことができるようになってしまったのだ。
 一路の力を知り、次から次へと一路のもとを訪れるオバケたち。オバケとコミュニケーションが取れて、身体に乗り移らせることもできる一路に、生前に残した未練を果たしてもらおうというのだ。
 残された子犬の面倒をみたり、恋人との思い出の品を手に入れたり、童貞で死んだガリ勉のためにおっぱいを求めたり――。
 死者はもちろん、子分格の村上壮太(むらかみ・そうた)や男勝りな同級生、市村桂(いちむら・けい)といった友人たちにも事情があるようで。悪ガキは悪ガキなりに、一路の奮闘は続いていく。

野暮な少年の獅子奮迅
 心霊体験という言葉について考える時、最初に思い出すのは自分が小学生の頃のことだ。夏の夜、地域の祭があった帰り、通っている小学校の裏を通りかかった自分は、校舎にかかった巨大な白いシーツのようなものを、確かに見た。明確に“何かの存在”を視たわけではないけれど、風もなかったし、校舎の半分近くを覆ったシーツ上のモノの大きさから考えて、やっぱりアレはオバケの類じゃなかったかと思う。
 10代前半の頃は、他にも幾つか「ん?」と思うことがあった気がするが、中学・高校と進んでいくうち、そういうことも皆無になってしまった。やはり霊的なモノと少年期の相性というのは、いいのだろう。
 この漫画の題名に含まれる「少年史」という言葉は、あまり聞き慣れない。たぶん、オバケ的なモノ(正確には死人の霊)との半ば強制的な交流によって、腕白小僧が精神的成長を経て、やがて少年時代を終えることを云っているのだと思う。
 人と霊が交流し、何らかの事件を解決していくという側面を持った漫画は、もちろん本作以外にも多数ある。例えば『GS美神』(第97夜)、『幽☆遊☆白書』(第84夜)、『シャーマンキング』(第30夜)、最近のものなら『でろでろ』『境界のRINNE』などが挙がるだろう(1つのエピソードのゲスト程度の扱いで幽霊が登場する漫画まで含めるなら無数になる)。
 そうした作品群が比較的スタイリッシュであるのに対して、この漫画の質感は素朴で野暮ったい。一路の造形からして(坊主は仕方ないにしても)恰好よかったり可愛かったりするわけではないし、姉を「デブスマン」と読んだりフルチンで駆け回ったりと、まさに1970年代の田舎の悪ガキそのものだ。
 しかし、だからこそ、他のどの作品よりも純度の高い“少年の成長”が描き得ているように思う。あか抜けない、人の心の機微の何がしかもまだ十分に感じ取れない少年が、それでもオバケの身の上に触れ、初めこそ嫌々ながらも自分のやり方で奮闘していく様はストレートに心に沁みる。

愛すべき粗野と人情
 一方、次から次へと一路の前に現れるオバケたちも、ともかく活き(?)が良い。持っている欲望は生前と大して変わらないように見えるし、成仏できないことも特に気に病んでいる様子もない。一路が依頼を拒み続けると、途端に悪霊然とした外見に変身して泡を吹かせにかかるオバケもいるが、それにしたって“近所のおじさんが悪戯小僧を叱る時に作る怖い顔”と同じ雰囲気で、心底からの害意が無い。何もなければ、そこらをふわふわと漂って、実に気楽そうだ。
 人の生死に関わるエピソードが主である以上、涙を誘うシーンは毎度のようにある。が、それ以上に自分が感じるのは、こうしたオバケたちの“ちょっと困った面もありながら、感情豊かで人情に篤い”という、実に人間臭い性格なのだ。
 もっとも、こういう性格なのは何も死人ばかりではなくて、一路の家族や友人といった“生ける者たち”も同様だ。作者が舞台を現代ではなく1970年代のしかも田舎としたのは、霊が語る悲しい物語を、溢れんばかりの愛すべき粗野さと人情味で彩りたかったからではないだろうか。そしてその試みは、恐らく成功している。
 このように生者も死者も優しさに溢れたこの作品世界において、死は断絶的で絶望的な別れではない。“少し大き目の契機”くらいのイメージに思える。同時にそれは、現実においても親しい者の死に触れた人が願って已まない理想でもあるだろう。深夜枠としてアニメ化されながら幅広い層の支持を集めたのは、この漫画が持つそんな優しさに、故人の、あるいは“いつか死にゆく存在”としての自分の、死後への希望を重ねた人が多かったからではないだろうか。

*書誌情報*
 元々4巻分の作品だったが、2002年のアニメ化に際してアニメ版のストーリーを漫画化したエピソードが加えられた。このため、それ以降のアッパーズKC版、モーニングKC版は番外編1巻が加えられた全5巻となっている。この他、アニメ化時に『ヤングマガジンアッパーズ』増刊として刊行された、本作全話、同作者による『ピアノの森』初期部分、単行本未収録短編を収録したムック『花田少年史 総集編』全5冊も存在する。

☆ミスターマガジンKC版…B6判(18 x 13cm)、全4巻。絶版。

☆文庫版…文庫判(14.8 x 10.5cm)、全4巻。絶版。

☆アッパーズKC版…B6判(18.2 x 13cm)、全5巻。

☆モーニングKC版…B6判(18 x 12.8cm)、全5巻。電子書籍化済。

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