第154夜 状況の千変万化に踊らず信念を貫け…『絶園のテンペスト』 | 漫画のレビュー&随想 | 100夜100漫

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第154夜 状況の千変万化に踊らず信念を貫け…『絶園のテンペスト

      2014/03/13

「愛花が殺されたのは不合理だ/魔法も不合理だ/なら二つをぶつければ辻褄が合う/愛花を殺したやつを/この手で殺してやれる」


絶園のテンペスト 1 (ガンガンコミックス)

『絶園のテンペスト』城平京 原作、左有秀 構成、彩崎廉 作画、スクウェア・エニックス『月刊少年ガンガン』掲載(2009年7月~2013年3月)

 “はじまりの樹”。そして、“絶園の樹”。人類の文明の発展を司るといわれる前者と、それに対すると云われる後者。その対決は多くの文明の神話や伝説に形を変えて遺されてきた。
 絶海の孤島。“はじまりの樹”を守護し、そのための魔法を行使する鎖部(くさりべ)一族でも随一の魔法使い、鎖部葉風(くさりべ・はかぜ)は、一族の者の陰謀により絶海の孤島に流される。鎖部の魔法の触媒となる“文明の産物”を入手し難い無人島にいながら、葉風は外界との交信手段を模索する。
 日本国関東地方。男子高校生の滝川吉野(たきがわ・よしの)は、ぼんやりと携帯メールを眺めながら友人を案じていた。その友人、不破真広(ふわ・まひろ)は、何者かによって両親とともに殺害された妹、愛花(あいか)の復讐のため、犯人を捜し出して殺そうと行方をくらませているのだ。
 鬱々としたまま愛花たちの墓に参った吉野は、そこで「フロイライン山本」と名乗る妙齢の美女に襲われかける。忽然と現れた真広に助けられる吉野だったが、時を同じくして出現した蝶により、人間が金属化してしまう奇病、黒鉄病が蔓延し、街は壊滅する。
 徐々に進む文明の崩壊は、果たして“はじまりの樹”の理(ことわり)か、あるいは“絶園の樹”によるものか。
 吉野と真広、葉風と鎖部一族、山本と政府関係者たちによる、「関節が外れた」世界をめぐる激動の日々が始まろうとしていた。

何重底?
 ウィリアム・シェイクスピアという名前を知ってはいたものの、初めて読んだのは大学3年の頃だった(ちなみに読んだのは四大悲劇の1つ『リア王』)。しかも読んだ動機が授業のレポートのためなので威張れもしない。
 それきりしばらくシェイクスピアのことは忘れていたけれど、まさかここで改めて興味を喚起されるとは思わなかった。物語の開始時に既に死者である、愛花の言葉としてしきりに引用される『ハムレット 』や『テンペスト』の一節は、愛花殺しの犯人を探し出し復讐するという序盤の展開に、ゴシックミステリ調のうち沈んだ格調を与えている。
 が、しかし、物語はそこに終始しない。ミステリ、魔法と能力バトル、サスペンス&スパイ、ラブコメ、SF……さながら二重底、三重底、四重底の宝箱のように、巻を重ねるごとに人物たちの関係性は捉え直され、物語の意味すら刷新されていく。
 先日、ジャンル確定不能なオムニバス漫画として『空が灰色だから』(第147夜)を紹介したが、それに比肩するようなことを、ストーリー漫画のスケールで行っているのだから空恐ろしい。シリアスなシーンなのに、やり取りがどう考えてもギャグにしか思われない場面などもあり、読者は幻惑されるだろう。自分は今、どういう文脈の物語を読んでいるのか、への揺さぶりが、物語のスリルとも相まってなかなかに魅力的な構成と云えるだろう。

それでも、頑張る人には成長を
 幻惑的な構成に加え、登場人物たちも曲者ぞろいだ。斜に構えながらも天才肌な真広、人当たりが良い割にどこかで線が切れてる吉野、偉そう系お嬢様で最強の魔法使い葉風、死者なのに生きる者への影響力絶大な愛花といった強力な十代たちに、覚悟と経験を積んでいる大人たちも振り回されがちだ。
 これだけ混沌とした要素と人物が混在していながら、あに図らんや物語は、少年少女(いや、大人も)の成長を描き出す。まるでそれこそが2本の樹が企図するものであるかのように。
 彼らは互いに疑いあいも衝突もするし、ぞれぞれが心の内に凍てつかせている悩みを抱えている。それでも真広が云うところの「理屈に合うかどうか」という理性の光を掲げ、世界を救おうとする彼らの姿には、思わずジャンルについての困惑など忘れて引き込まれるのだ。
 全てが終わった後、世界と彼らはどうしていくのか。それが描かれる最終話の、サブタイトルに注目して欲しい。この漫画らしい、何ともこじゃれた云い回しでありながらも、手放しでない希望を謳った素晴らしいものだと思うのだが、いかがだろうか。

*書誌情報*
☆通常版…B6判(17.4 x 11.2cm)、全10巻(本編は第9巻まで、第10巻は外伝的エピソード集)。他に「 Collaboration Guide Book」として第8.5巻、「原作完全ガイド&カラーイラストブック」として第9.5巻が存在する。

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