第147夜 ぐちゃぐちゃな、自意識と外界の間で…『空が灰色だから』 | 漫画のレビュー&随想 | 100夜100漫

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第147夜 ぐちゃぐちゃな、自意識と外界の間で…『空が灰色だから

      2014/02/13

「物心も付いてない頃/家族で出かけた遠い町 太陽光を浴び黄金色に燃えていた麦畑に今度は私が連れていくから/火が鎮まるまでお話しよう/その後は一緒に流れ星を探そう/古旅館の頼りない窓を優しく開けてせーので見上げた夜空には/星なんてひとつもなくて」


空が灰色だから 1 (少年チャンピオン・コミックス)

『空が灰色だから』阿部共美 作、秋田書店『週刊少年チャンピオン』掲載(2011年8月〜2013年1月)

 過剰気味な自意識を抱えて生きている人がいる。そういう人の、考えることややることは、この上もなく苦く、甘酸っぱく、時には優しさに満ちあふれ、それでいて悪魔のように無慈悲で、戦慄するほどに軽々しい。
 10代女子を中心とした人々の日常にそっと顔を覗かせる、うす曇りのような出来事たち。そんな白くもあり黒くもある断片を綴ったエピソード群。

次に何が来るのか
 ジャンル、ということについて徒然に考えてみると、これはある種の安心感を観る者に与える機能があるようだ。純然たる江戸ものは江戸期という時代を逸脱しないだろうし、熱血漫画なら気合いがあれば何でもできる。
 逆に云えば、ジャンルはマンネリとほぼ同義であるので、世の中の面白い作品は、どれもみな“ジャンルにある程度寄りかかりながらも、どこかでそれをハズす”という、ある意味で矛盾した芸当をやってのけているのだと思う。
 ただ、この漫画は寄りかかるジャンルがあり過ぎて、どこにも寄りかかれないのではないだろうか。八重歯が可愛い少女たちの造形と表紙のポップさに騙されてはならない。
 単行本1冊あたり、1話完結のエピソードが大体12本収録されたオムニバスなのだが、その内訳は、青春の苦味あり、お笑い的なボケと突っ込みの応酬あり、ダメな大人のダメな日常あり、掛け値なしのホラーあり、ストレートな友情・人情ものありと、バラエティに富み過ぎている。基本的に各話は、例えば『潔く柔く』(第144夜)とは正反対に完全に別個の人物たちによる物語である(厳密には、過去のエピソードの続編が2、3ある)ため、1ページ目で“どんな話なのか”を推し量ることはできない。どんなに楽しげな導入であっても、悲惨な結末が待っていたりするのだ。タイトルの表現に乗っかって云えば“白にも黒にもなる”その自在感というか、次に何が来るか分からない楽しさと怖さが魅力と云えるだろう。
 ときおり心が震えるような“いい話”や、ままならない日常を描いた極めて文学的なエピソードがある一方で、やはり読者の脳裏に焼き付いてしまうのが、登場人物の自意識が発酵して外界に染み出してきたかのような“黒さ”だろう。『さよなら絶望先生』(第36夜)を読んだことのある読者は、あの作品の木津千里(きつ・ちり)の黒さをより毒々しくしたものを思い浮かべて頂ければいいかと思う。シルエットがこんなにも不吉さや禍々しさを表すとは、この漫画を読むまで意識しなかったものだ。
 そのような諸要素を更に活かしているのが、幕切れのセンスだ。初読時、多くの話はかなり唐突に終わるという印象を覚えるが、吟味してみれば、そのタイミング以外ありえないような絶妙な切り取り方がされている。その幕切れに“もやもや”としつつ余韻を味わえる、苦くも中毒性のある読後感だ。

停滞する外面と、内面的言葉の奔流
 多彩なバリエーションを誇る本作のエピソードたちだが、根本的には「コミュニケーションのとれなさによる、うまくいかなさ」というテーマで共通しているように思われる。多くの主人公は、他人とうまくコミュニケーションのとれない“クラスで浮いているタイプ”であり、たまにそうでない人物が登場しても、そうした人は外面の言動とモノローグとが痛々しいまでに乖離しており、それがまた辛い。
 作画上の表現による“黒さ”や、残酷なまでの展開のシビアさが前面に出ており気付き難いが、思えばそうした自己意識を語る言葉の豊穣さこそが、この漫画の根幹を形作っているのだ。
 ひたすら感情を吐露しつつも、それを連呼し過ぎるあまり、その感情の意味がゲシュタルト崩壊を起こし、それでも意味不明一歩手前の言葉を紡ぎ続けるそのモノローグは、読む者の拒否反応を引き起こす狂気を孕みながらも、不思議な感動ももたらしてくる。世界中の言語が導入されつつ、ダブルミーニングを伴って神話と現代が同時に語られるというジェイムズ・ジョイスの奇作『フィネガンズ・ウェイク』を微かに思わせる、言葉自体の面白さがそうさせるのだろう。
 このモノローグの妙味を味わうのに、自分は特に単行本第2巻収録の21話「こんなにたくさんの話したいことがある」を推す。少女の詩的ですらあるモノローグと、それを聞く少女のぎこちない触れ合いは、きっと、この漫画のテーマについての作者なりのハッピーエンドなのだと思うからだ。
 どうしても好みが分かれるタイプの漫画には違いないが、この良質の短編小説集のような粒ぞろいの意外性は、多くの人に楽しまれるものだろう。

*書誌情報*
 一時期品切れ状態だったが、重版された模様である。
☆通常版…B6判(17.2 x 11.2cm)、全5巻。電子書籍化済。

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Comment

  1. さつま より:

    こんにちわ。いつも着眼点するどい感想で素晴らしいです。

    コミュニケーション不全がテーマというのも、この作品を綺麗に表現できてますね。以前作者の阿部先生がダヴィンチのインタビューで「行き場のない気持ちを描きたい」とおっしゃっていました。言われてみると、確かに全編その通りだなと。新たな視点で再読すると、同じ漫画でも新たな魅力を発見出来ていいですね。

    『空灰』終盤はそのテーマによる縛りで、作品が苦しくなってきた印象でした。その分、阿部先生がchampionタップ!で現在連載中の『死に日々』は以前よりも自由にやっているように感じます。ページ数が一定じゃないのも阿部先生の良さが出てます。未読ならぜひ。

  2. 100n100r より:

    さつまさん

    いらっしゃいませ。
    素晴らしいと言って頂いて、ありがたいです。

    漫画について書くときは、その漫画に隠されている面白さを掘り出せるよう心がけています。たまに深読みしすぎますが^^;

    『死に日々』を少し読みました。相変わらずの展開の無軌道ぶりが、この作者の場合は逆に安心しますねw
    やっぱり言葉の使い方が独特で、すごいなーと思います。

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