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――夜毎、お話ししましょう。貴方が私を縊(くび)らぬ限りは。

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第146夜 スパイスの香りに、みんなが集まる…『今日、カレー!

      2014/02/13

「やっぱりおなじがいいね」「ん?」「あのね/やっぱり/おなじものを おいしいって おもうって/なんか うれしいね」


今日、カレー! (BLADE COMICS)

『今日、カレー!』縞野やえ 作、マッグガーデン『月刊コミックブレイド』掲載(2011年9月~2012年2月)

 美しい自然に囲まれ、採れる魚も野菜もおいしい弁天大島(べんてんおおしま)。もともとは弁天様を奉る島だっただけに、ちょっと不思議な出来事が今も起こる場所だ。
 東京から、亡き母の故郷であるこの島に引っ越してきた春瀬うらら(はるせ・−−)は、5歳の女の子。アルバイトの女子高生、お調子者のスバルと丁寧だけどちょっと抜けてる頼子(よりこ)の2人とともに、屋台カーで父の祐一(ゆういち)が営むカレー屋を手伝う毎日だ。
 島の人々とののんびりとしたひとときをスバルが掻き回し、頼子・祐一・うららが呆れる、そんな日常を過ごしてみたり、弁天様を始めとする不思議な存在たちとも仲良くなってみたり。
 母との思い出を胸に、すこしセンチメンタルになることもある。けれど、賑やかな島の面々と、胸をくすぐるスパイスの香りが、うららを優しく育んでいく。

闇カレー
 もう数年前になるが、友人の家で“闇カレー”をやったことがある。玉ねぎとルーだけで作ったカレーに、参加者が持ち寄った具材を他の人に分からないように投入して皆で食べるという、つまりは“闇鍋”のカレー版だ。
 いま憶えている限りで投入された具材を上げると、ネギ、餅、トマト、カマンベールチーズ、おから、マグロの頭、ミカンの缶詰(シロップごと)という感じだったと思うが、これが予想外に美味しく、カレーの許容範囲の大きさに一同おののいたものだった。
 それにしても、これほど胸がときめくタイトルがあるだろうか。スーパーで見知らぬ子が、放課後に同級生が、家に帰ってきたところに家族の誰かが、少し浮かれるようにこの言葉を云った憶えが、誰にもあるのではないだろうか。この漫画を全編にわたって彩るのは、この言葉と同じ、優しさなのだと思う。
 反面、展開される物語は、複数の要素が混淆した、読む者の意表を突いてくるものだ。カレー屋台をめぐっての、春瀬親子とアルバイトの女子高生2人、そして島民たちとのほのぼのとした交流が描かれる一方、島を守護する弁天様、いたずら好きだが気のいい小鬼、影の少女といった人ならぬ者たちとの関わりにも紙幅が費やされている。その他にも細かな伏線や設定が散在しており、まさしく闇カレーといった趣きなのだ。

親和力と素朴なもの云い
 単行本1巻という物語の尺から考えて、こうした要素の量はやはり多過ぎるというのが常識的なところだろう。うららの母親のことや、影の少女、2人のアルバイトが抱える家庭の事情など、確かに消化不良な印象ではある。
 が、しかし、各要素の混ざり具合が絶妙なのか、この漫画には妙に再読を誘うところがあるのだ。『浪漫倶楽部』(第33夜)ようなメルヘンチックな物語の予感と、『あずまんが大王』(第46夜)のような女子高生のはっちゃけぶりと、『ともだちパズル』(第16夜)のような少女のリリシズムの混淆。強いて云えば、そのように表現できるかもしれない。月並みな物言いで恐縮だが、この不思議な魅力は、何を入れても割と美味しく食べてしまえるカレーの親和力に、やはりなぞらえたくなる。
 そして、渦巻く諸要素をとりまとめているのが、うららの持つ素直な感受性だと思う。彼女の云うことは、素朴で他愛ない言葉ばかりである。だからこそ、人にも人でない者にも一様に響き、彼女を中心として穏やかな場が形作られるのだ。
 読めば当然、カレーを食べたくなる。そして同時に、人と仲良くしたいと思わせる一作である。

*書誌情報*
☆通常版のみ…B6判(18.2 x 13cm)、全1巻。

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