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第132夜 謎と人を愛す、食いしん坊ふたり…『魔人探偵脳噛ネウロ

      2014/01/17

「…………ねぇネウロ」「何だ」「難しいね/人間って」「フハハハハ/何を突然我が輩のようなセリフを」


魔人探偵脳噛ネウロ モノクロ版 2 (ジャンプコミックスDIGITAL)

『魔人探偵脳噛ネウロ』松井優征 作、集英社『週刊少年ジャンプ』掲載(2005年2月~2009年4月)

 女子高生、桂木弥子(かつらぎ・やこ)の日常は突如壊された。父親の誠一(せいいち)が密室の中で何者かに殺されたのだ。悄然とするヤコの前に、それは忽然と現れた。
 脳噛(のうがみ)ネウロ。「謎」を糧とし、魔界の「謎」を全て食い尽くした突然変異種の魔人である。彼は、自らの脳髄の空腹を満たすことのできる「究極の謎」を求め、知性と悪意と向上心が渦巻く人間界へとやってきたのだ。
 警察の捜査を尻目に、ネウロはヤコを強制的に名探偵に祭り上げ、それを隠れ蓑に魔界777ツ道具を駆使して謎解きを始める。全ては、謎を解くことで自らの飢えを満たすため。ことあるごとにヤコをいじめて楽しむようなドSでエゴイスティックな魔人の欲求は、常人離れした犯罪者たちと呼応する。
 自らを探してまわる擬態者、奇跡を求めてあがく計算者、そして絶対悪の体現者−−。何人もの犯罪者による謎と戦いを経て、魔人と少女のそれぞれの心にも変化が訪れるのだった。

顔【とがびとのしょうぞう】
 ミステリー要素のある漫画について書くのは『あやつり左近』(第94夜)以来だ。とはいっても、第1巻の作者コメントにあるように、この漫画は「推理ものの皮をかぶった単純娯楽漫画」に違いない。魔人という人間を超えた存在が、その特殊能力で無理矢理にトリックを解明していくので、純然たる推理ものを想像して読むと、いささか肩透かしを食った気持ちになるかもしれない。
 それでも、本作が魅力的でないというわけではない。ここでフォーカスされているのはトリックではなく、犯人の心理であり、思想なのだ。それを端的に表しているのが、ネウロ達にトリックをあばかれ犯行を自供し出す時の犯人の顔の描写だ。動物的だったり無機質だったり、ともかくネウロとは違う意味で人間離れしたその造形は、『太臓もて王サーガ』(第87夜)でもパロディ元として使われていることからもインパクトの程が知れる。そのビジュアルの根源である犯人の思想も、ありがちな犯人像とはかなり異質で「そういう考え方!?」と、いっそ清々しい驚きをもたらしてくれる。

人【ゆいいつ、かこのおのれをこえるもの】
 以上のような犯人像や、魔人探偵という設定、随所に挟まれるネウロによるヤコいじめ(ここには作者がデビュー前にアシスタントをしていた澤井啓夫の『ボボボーボ・ボーボボ』的な匂いを感じる)やヤコの大食いシーンなどから、色物的な扱いを受けることも多そうな本作だが、底に流れる主題は実に正統派なものだ。この、“一見キワモノでありながら正統”というスタンスは、現在連載中の『暗殺教室』も同様と云えるかもしれない。
 『HELLSING』(第39夜)や『うしおととら』(第64夜)などで明らかなように、人間と妖怪や魔族など人ならぬものが相対する時、人間の素晴らしさが間接的に描かれる。この漫画でもそれは同様で、かたや犯人として高度な「謎」を構築し、かたや警察の誇りをかけて捜査を進める人間の知性、情念、不屈さに対する魔人の敬意は、形を変えて幾度も語られている。
 そして、そうした人間の力を体現する者として、もう1人の主役たるヤコの存在が活きてくる。殺人による父の喪失という過去を超え、彼女が犯人たちに共感する姿には、あくまで自分中心なネウロと対照を成す魅力がある。かくして、人と異形のコンビこそは、やはり人間の素晴らしさを再認識させてくれる最たるものと思うが、どうだろうか。驚愕の展開と、一本筋の通った人間賛歌を楽しんで欲しい。

*書誌情報*
☆通常版…新書判(17.2 x 11.4cm)、全23巻。電子書籍化済み(カラー版もあり)。
☆文庫版…文庫判(15.2 x 10.6cm)、全12巻。通常版未収録の連載前読み切り編を収録。最終巻に文庫版あとがき有り。

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