漫画のレビュー&随想 | 100夜100漫

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第128夜 流れる涙は、狂おしい郷愁のゆえか…『地球(テラ)へ…

      2013/12/15

「みんな聞け/ミュウは弱い!/傷つくとショックを受け/仲間たちの死に気をとられる/だがこれは戦闘だ!!/勝つことだけを考えろ!!/我々はただひとつのことだけを考えるんだ!/この戦いに勝って地球(テラ)へ…/地球へ行くと!」


地球へ… 1 (Gファンタジーコミックススーパー)

『地球(テラ)へ…』竹宮恵子 作、朝日ソノラマ『月刊マンガ少年』掲載(1976年12月~1980年4月)

 西暦3000年を過ぎた、はるか未来。人類による地球の衰亡は確定的なものとなり、結果として彼らは自分たちをコンピュータによって完全に管理する道を選んだ。人々は子ども教育専用の惑星、社会生活を営む大人の惑星に分かれて居住し、母なる地球の土を踏めるのは一部のエリートのみ。いわゆるS.D.(Superior Dominance;特殊統治体制)の時代の到来だった。そこでは、日々の生活から将来の進路まで全てがコンピュータの決定に基づいていた。
 地球から遠く離れた惑星アタラクシアで育った少年、ジョミー・マーキス・シンは、成人検査が行われる“目覚めの日”(14歳の誕生日)の数日前から、人間離れした盲目の美少女と青い髪の青年が出てくる不思議な夢に悩まされる。大人としての適性をみるという成人検査に、疑問を持ちながらもその日を迎えたジョミーだが、その最中に夢の青年とコンタクトする。
 人類に一定の確率で生まれる、超能力を有する新人類“ミュウ”。成人検査の隠された役割は、そのミュウをみつけ排除することだった。強力なミュウとして覚醒したジョミーは、夢の青年が長を務めるミュウの共同体に迎えられる。青年の名はソルジャー・ブルー。彼を指導者として、ミュウたちは人類に対して自分たちの権利を訴えてきたが聞き入れられず、人類政府の中枢である地球を目指しているのだった。
 地球から2光年足らずの距離に浮かぶ教育(エデュケーショナル)ステーションには、あらゆることに無感情にして成績抜群、若くして執行機関「メンバーズ」の一員となったトップエリート、キース・アニアンがいた。成人検査の記憶も、幼少時の記憶も持たない彼は、次第に自らの出生と、ミュウについての真実に近づいていく。
 ミュウの長となったジョミーと、人類の指導者としての階を駆け上がるキース。相反しながらも交錯する立場の2人を中心に、ミュウと人類の争いと葛藤は続いていく。人類の鬼子たるミュウの、地球(テラ)への尽きない郷愁は募る−−。

リーダーという呪縛
 自分のSF歴はそれほどでもないことは『成恵の世界』(第74夜)で触れたと思う。それゆえ、この漫画を読んだのも、だいぶ漫画の世界にのめり込んでからなのが惜しいと云えば惜しい。
 はるか未来、地球を離れて数多の星に植民した人類の物語だが、そこには科学万能の輝かしさではなく、故郷から遠く隔たった悲壮さと、管理機械への疑念が横たわっている。
 コンピュータに管理された社会を描いたディストピア(反理想郷)ものという点では、本作がオリジナルというわけではない。少なくとも『百億の昼と千億の夜』(第99夜)の光瀬龍による原作は本作以前に描かれているし、更にその10年以上前にはカート・ヴォネガットの『プレイヤー・ピアノ』が書かれている。恐らくもっと遡る事も可能だろう。コンピュータによる人間社会の精緻な管理の描写はこの漫画の特徴のひとつであるけれど、本領は、また別なところにあると思う。
 その1つは、ミュウと人類それぞれのリーダーの人物像だろうと思う。描かれ方の結果として、ミュウの長となるジョミーに感情移入する読者は多いだろう。序盤こそ、ライバルである人類側のリーダー、キースは無感情に、ジョミーは感情豊かに描かれるのだが、次第にその対照性は薄らいでいくようだ。ここに自分は、リーダーという役割が個人に課す、重圧や孤独や、非人間化とでも云うべき呪縛をみて薄ら寒くなる。

孤独の万有引力
 翻って云えば、ふたりのリーダーの間には“違い”よりも“違いの無さ”が浮き彫りになる。この“違いの無さ”こそが、この漫画が目指したものではなかったかと思うのだ。
 しかし、共通点があるにもかかわらず、人類とミューはどこまでも分かり合わない。そして、確執の発端、お互いに譲れないものとは、煎じ詰めれば他ならぬ地球なのだ。ミューはあくまで地球を目指し、人類はそれを認めず阻もうとする一途さに、読者は不思議な感動を味わうだろう。
 ミューにせよ人類にせよ、この地球への思慕は何なのか。このことを考える時、自分は谷川俊太郎の「20億光年の孤独」という詩を思い出す。恐らくは中学か高校の国語の教科書で読んだこの詩には、「万有引力とは/ひき合う孤独の力である」という一節がある。この漫画における、母なる星への執着も、それを巡っての争いも、広大過ぎる宇宙がもたらした孤独の万有引力によるものに思えて、それがうるわしくも悲しい。
 そうした悲劇のそもそもの発端として、なぜ人類が地球を離れねばならなかったかの理由を、作者は作品冒頭に置いている。そこから、この漫画のテーマを環境破壊への警鐘ととる事もできるだろう。しかし、これだけのスケールで展開する叙事詩は、そんな枠に収まらない。ひたすらに母星に恋焦がれる者たちによる、激しく儚い火花。そんな捉え方こそ、この漫画の本質に近いのではないかと思うのだ。

*書誌情報*
 下に挙げた以外も含め、7種程刊行されているが、中公文庫版以外は軒並み絶版の模様である。刊行が新しいGFC SUPER版も比較的入手しやすい。ebookjapanで独自の電子書籍版も刊行されている。
☆通常版…B6判(17.8 x 11.6cm)、全5巻。絶版。
☆中公愛蔵版…A5判(20.8 x 14.6cm)、全1巻。絶版。
☆中公文庫版…文庫判(15 x 10.6cm)、全3巻。
☆コンビニ版…B6判(17.6 x 12.8cm)、全3巻。絶版。
☆GFC SUPER 新装版…B6判(17.8 x 13cm)、全3巻。絶版。各巻末に作者、テレビアニメ版監督、ジョミー役声優へのインタビュー掲載あり。
ebookjapan版(電子書籍)…全3巻。

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