漫画のレビュー&随想 | 100夜100漫

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第120夜 甘々な見た目に隠されたほろ苦さ…『シュガシュガルーン

      2013/11/04

「覚えてる…?/ずっと前…/約束したよね/「あたしたちは/ずっと親友」


シュガシュガルーン(1)

『シュガシュガルーン』安野モヨコ 作、講談社『なかよし』掲載(2003年9月号~2007年5月号)

 魔界に住む2人の小さな魔女、伝説の魔女シナモンの娘で元気者のショコラ=メイユールと、現女王キャンディの娘ながら引っ込み思案なバニラ=ミュー。魔界の次期女王(クイーン)候補としてライバル関係にありながら、幼い頃からの親友同士の2人は、女王を決める試験のため、人間界へやってくる。
 教官役の魔法使いロッキンロビンの監督の下、加藤(かとう)ショコラ、愛須(あいす)バニラと名乗り、人間界の学校に通いはじめる2人。人間とふれあい、彼らが魔女に恋情や友情など何らかの感情を抱いた時に表れるハートを集めること。それが、次期クイーンを決めるための試験だ。
 魔界に居た頃はモテモテだったが、勝手が違う人間界に慣れず、ハート集めがはかどらないショコラと対照的に、バニラは着実に成績を伸ばしていく。調子の出ないショコラは、あるとき出会った学園の先輩で謎めいた雰囲気をまとう少年ピエールに心惹かれる。
 もしも魔女が誰かにハートを奪われれば、命を落とす事になる。かつて魔界で封印された強力な魔法使い、「氷雪の貴公子」グラースによく似たピエールに不穏なものを感じつつも淡い恋心を抱くショコラは、自らのハートを守りながら女王を目指す。
 そんな2人の女王試験と並行して、魔界では、かつて迫害を受け追放されたオグルと呼ばれる一族が不穏な動きを始めていた。魔界創生からの因縁に否応なく巻き込まれ、2人の道は分かたれていくのだった――。

ハートをねらえ
 安野モヨコと聞いて思い浮かべるのは、自分としては『働きマン』に『さくらん』なのだが、皆様はいかがだろうか。そんな自分が安野作品として最初にこの漫画を挙げるのは変かもしれないが、完成度という点では出色だと思っている。
 今は消滅したようだが、ゼロ年代前半、テレビ東京(関東圏12チャンネル)では土曜早朝に女児向けアニメ枠が存在した。アニメ化された本作もその枠で放映されており、金曜からの徹夜明けだった自分はその最終話に触れ、原作を読むに至った。
 そもそも作者を少女漫画の描き手として認識していなかったのだが、もともと『別冊少女フレンド』でデビューしているし、この漫画を読む限り、達者である。繊細にして明瞭な絵柄で描かれる、洋菓子をモチーフとした魔界の世界観と住人達はまさに言葉通りチャーミング(魅了的)で、自らの魅力によって人間の心的エネルギーをハートとして取り出すことのできる魔女(男性は魔法使い)という設定(夢魔などの伝統的な魔族を髣髴とさせる)と組み合わされることで本作に特徴的な色彩を与えている。
 この漫画において、人間からのハートの回収は重要な要素だ。魔界では人間のハートは通貨でありエネルギーでもあるという事情によって、“人間からのハートの回収→ステッキの強化やアイテムの通販”という図式が成り立っており、ある種RPG的な面白みを提供する。同時に、ハートを取られた人間は魔女に抱いていた感情がリセットされる(時間をおけば再生する)ため、“好意を抱かれても、ハートを取ってしまえば振り出しに戻ってしまう”という、魔女の使命に付きまとう一抹の寂しさが描かれている点も興味を惹く。そこから“お互いのハートを交換して愛を誓う”という魔界の結婚=純愛の素晴らしさを描く手並みにも、素直に頷ける。かっちりとした舞台設定がなされながら、少女漫画的な夢を確かに描き出しているのだ。

女王の政治的課題と少女の友情
 そんな舞台で紡がれる物語は、幼馴染で親友同士の少女2人が魔界の女王になる試験で競い合うという、それ自体は既視感のあるものだ。が、漠然と考えられがちな“女王になる”ということを、作者はかなりリアルに描いていると思う。
 冷静に考えると、女王になるということは、国家の最高権力者として政治的な問題を担うということだ。このことについて作者はお茶を濁したりしない。人種問題が存在し、宮殿(パレ)内でも女王派と元老院派の派閥争いを描くなど、『なかよし』の作品としてはあまり例のない描写が続くことに、作者の意識は表れている。
 作者の、こうした冷めた眼差しはなんなのだろう。ある意味で誠実さなのだと思う。魔界という国家を描き、女王という為政者を描く以上、現実的にはそこに付随するだろう諸々の不都合や厭わしいものを、少女向けだからと省略する態度を、作者は取りたくなかったのだろう。ここに『働きマン』などと同等の、社会派的な眼差しを視ることも不可能ではないだろう。そうしたごまかしのなさが、結果的に本作のファンタジー的要素を重厚なものに押し上げている。
 そうした政治的な動向を盛り込みつつも、本作の主軸はショコラとバニラという2人の魔女の関係性だと思う。女王の座を巡る争奪戦は物語の原動力だし、少女漫画の常として当然、魅力的な男子が登場し彼らとの恋模様も描かれる。だが、物語の始点と終点を結び付けているのは、やはりショコラとバニラの友情の誓いと、それぞれの成長だろう。大団円での2人のやり取りに、涙腺が緩むのは自分だけではないはずだ。

*書誌情報*
☆通常版のみ…新書判(17 x 11.2cm)、全8巻。電子書籍化済み。最終巻は特装版(初期構想メモ+カラーイラスト集+おまけ漫画+人物紹介を収めた小冊子付録つき。絶版)あり。

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