第103夜 一つ屋根の下、可笑しく切なく青春は往く…『めぞん一刻』 | 漫画のレビュー&随想 | 100夜100漫

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第103夜 一つ屋根の下、可笑しく切なく青春は往く…『めぞん一刻

      2014/01/04

「生きていれば――/いろんな欠点も見えてくるだろう。/でも 死人は無敵だ。/彼女の中で理想像が増殖していく。」


めぞん一刻 (1) (小学館文庫)

『めぞん一刻』高橋留美子 作、小学館『ビッグコミックスピリッツ』掲載(1980年10月~ 1987年4月)

 東京郊外の時計坂に建つ一刻館は、風呂なし、トイレ・洗面共同の木造アパート。浪人生の五代裕作(ごだい・ゆうさく)は、隣室の慇懃無礼に覗きを嗜む四谷(よつや)と、スナック勤務で下着姿でうろつく六本木朱美(ろっぽんぎ・あけみ)、それに主婦なのに酒ばかり飲んで息子を困らせている一の瀬花枝(いちのせ・はなえ)といった悪ノリ好きな隣人たちにおちょくられ、その度に出て行くの出て行かないので押し問答という幸薄い毎日を過ごしていた。
 ある日、管理人だった老人に変わって、新管理人、音無響子(おとなし・きょうこ)が赴任する。若く美しい響子に一目惚れした五代だが、響子は結婚半年で亡くなってしまった亡夫、惣一郎(そういちろう)のことが忘れられずにいた。
 受験、大学生活、就職と、いつでも瀬戸際に追い詰められる五代。そこに加えて曲者ぞろいの隣人たち、恋敵のイケメン三鷹瞬(みたか・しゅん)、五代に思いを寄せる女性たちが話を一層ややこしくする。ただでさえ天然気味な上に思い込みが激しく、亡き夫を慕い続ける響子に、五代の思いが届く日はくるのだろうか――?

現代ラブコメ作法の先駆
 高橋留美子の漫画に触れたのは、中学生の頃に読んだ『らんま1/2』が最初だったと記憶している。本作については知ってはいたものの、アパートで暮らす浪人生の話と聞いて、今ひとつ親近感が湧かず、「こんなのも書いてるんだ」くらいの認識で済ましていた。
 が、年齢を重ねた今になって読むと、沁み入るような名作だと感じる。恋愛模様もそうだが、一刻館の怠惰な面々による賑やかな毎日には、現代の漫画にない安らぎを感じる。こうした作品を20代前半(恐らくはヒロイン響子と同年代!)で連載していた高橋留美子という漫画家は、やはり尋常ではない。
 本作の、後の漫画界への影響は計り知れない。『ラブひな』(第19夜)、『おたくの娘さん』(第17夜)など直接的なもの以外にも、ラブコメ的な要素を持つ作品は多かれ少なかれ本作の影を踏んでいるだろうし、響子が常用している「PIYO PIYO」のエプロンに至っては数多の作品にオマージュ的に描かれている(なぜ商品化しないのか…と思ったら、されている模様)。春は桜と出会い、夏は海とお祭り、秋はスポーツと文化祭、冬はクリスマスに初詣と、日本の四季折々の風物に思いがすれ違う恋愛の狂騒を織り混ぜる、云わば“ラブコメ作法”とでも云うべき手つきも、本作が先駆となったものだろう。

家族の肖像
 しかし本作は、今日においても、ただ記念碑めいた意味しか持たないのではない。端的に云って、面白いのだ。個室アパートが支配的になり、携帯電話が普及した現在においても、その魅力は減じていないと思う。
 作者自身が「性格的に自分にいちばん近い」と語る響子は、母性的な優しさを湛えた女性でありながらも、2人の男に言い寄られてどちらかを選べず、そのくせ嫉妬深いという未熟な面も持っている。そういう複合的なヒロイン像や、響子たちの三角関係を酒の肴にしている一刻館の住人たちの遠慮のない台詞(「体が夜泣きしないかい?」「男盛りをもてあまして」など)には、作者の女性的な繊細さと、同時にある意味で開き直った見も蓋もなさが嗅ぎとれる。前途ある若者の、未亡人であるアパート管理人への恋、という字面だけでは思い起されない、彼らの生臭い共同生活の有り様が、これほど描写される作品も珍しい。
 そして、恋愛模様とリンクするように、五代や響子、ライバル三鷹の家族がしっかりと描かれている点がまた素晴らしい。田舎から出てくる五代の祖母(いかにも高橋留美子作品らしい3頭身)や、実家で定食屋を営む父母に遠方に嫁いでいる姉と、五代の家族はフルセットで出てくるし、響子に至っては実家である千草(ちぐさ)家の父母、亡夫の家の義父母と揃い踏みする。三鷹も父母や妹だけでなく叔父が登場し、大いに事態をかき回してくれる。
 一刻館の住人たちによる“擬似家族”性ということが云われて久しいと思うが、それ以前に本作は家族の漫画なのだ。五代の祖母や響子の親たち(ついでに三鷹の家族)の心を汲めば、終盤から最終話までの流れが、しみじみ心に迫るだろう。

*書誌情報*
☆通常版…新書判(18.6 x 13.4cm)、全15巻。絶版。
☆特製ワイド版…A5版(21.2 x 15.2cm)、全10巻。絶版。
☆文庫版…文庫判(15.2 x 10.6cm)、全10巻。作者インタビューあり。
☆新装版…B6判(17.8 x 12.8cm)、全15巻。電子書籍化済み。
☆コンビニ版…B6判(17.8 x 13cm)、全6巻。絶版。

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