第102夜 脱力オチが、疲れた心にじわりと効く…『しょんぼり温泉』 | 漫画のレビュー&随想 | 100夜100漫

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第102夜 脱力オチが、疲れた心にじわりと効く…『しょんぼり温泉

      2014/01/04

「また来てねー」


しょんぼり温泉 1 (ジャンプコミックス)

『しょんぼり温泉』小田扉 作、集英社『ジャンプスクエア』掲載(2009年11月~2012年1月)

 諸堀(もろほり)温泉は、かつてはドラマのロケ地になったものの、特に目玉となる観光スポットもなく、ガイドマップは20年前に作られたきりという寂れた温泉地。当然のように閑古鳥が鳴く食堂の娘で中学1年生の島守巻子(しまもり・まきこ)は、このしょぼい町の現状を打開しようと思い立つ。
 うやむやな感じでラーメン屋に設置されている観光協会の協会長に就任すると、スナックの息子で小学生のたかひろとともに諸堀の町おこしに着手する巻子だが、どうも巧くいかない。
 大人たちも現状がいいとは思ってはいないが、祭りを復活させたり、マニアックなスポーツの世界大会を後援したり、ご当地アイドル、お見合い、郷土史編纂、ギネス記録樹立など、色々な策を巡らせても、イマイチちぐはぐな結果に終わってしまう。それに、何となく日々が過ごせてしまっているために危機感はあまりない。
 まばらにやってくるお客たちは、変な興味や複雑な事情があったりの奇妙な人たちばかり。そんなこんなで、有名温泉地にも秘湯にもなれそうもない、諸堀の生温かい日々は続く。

微妙さのリアル
 『オンセンマン』(第26夜)でも書いたように、自分は温泉が好きだ。草津や有馬、別府といったメジャーどころも悪くないけれど、つげ義春(第86夜)の漫画に出てくるような、ひなびた秘湯がやはり好きである。
 こんな風に書き出すと肩透かしを食らわせてしまいそうなので予め断っておくが、本作には温泉についての描写はほとんど無い。「○○しよう」という各話タイトルのテンプレートが示すように、臨終寸前の温泉町を、どうにか再興しようと頑張る人達の奮闘とその結果が主題なのだ。
 温泉地ならお湯さえ良ければお客も来そうなものだが、作者は絶対にそういう方面に話を持っていかず、仕方なしに主人公格の巻子を始めとする面々が地域振興のために色々と画策するわけだが、まあ成功はしない。たいていは徒労に終わったり、あるいは想定していたのとはだいぶ違う、成果とも云えないような(テレビ朝日の『ナニコレ珍百景』のような)結果を一応出したところで多くの話は幕となる。そこに脱力した可笑しみが生まれる。人々は決してウケを狙っている訳ではないのに、読者は「しょうがないな、この人達は」と苦笑してしまうのだ。加えて、本作に出てくる人々は総じて説明力というかコミュニケーション不足のため、事態は結構な頻度でミステリ風味な展開を見せるのだが、それがまた全ての経緯が明らかになった時の、がっかり感というか、残念な感じをいっそう引き立てているように思える。
 翻って自分の現実を顧みると、何事かにチャレンジして、大成功でも大失敗でもなく、微妙としか云い様のない結果になることは、結構な頻度で経験しているように感じる。それを思うと、本作の多くのエピソードの結末は、ぱっと見はいかにも漫画的に映るのだが、むしろ現実的と云うこともできるような気がしてきてしまう。

温泉というものの本質
 さて、そうかと云って、ただ残念な笑いを誘うシーンばかりが本作の持ち味ではない。大袈裟に云えば、現代社会の競争原理に敢えて背を向けた町だけが持ち得る安らぎと云えばいいだろうか。有名になることを半ば諦めている町であるために、ワケありというか、平たく云えば生活が苦しくなったり都会生活に嫌気が差したりした人が、諸掘には結構やって来る。中には超貴重なリピーターだって居る。こういう人たちは、恐らく草津や有馬を訪れたりしないだろう(偏見だろうか)。諸掘を選んでやって来るのだ。
 そうした人たちを、構い過ぎず、また見捨てもせず(だって町の方が世の中からあまり顧みられないのだから)、ただ諸掘は受け入れる。そして去る者には投げやりに、「また来てね」とだけ呼びかけるのだ。素朴でありながらも不思議に情緒を感じさせる画で描かれる、そんな町の在り方が、どの話にも「なんか微妙だったけど、まあいいじゃん」とでも云うような、じんわりとした温かみを与えている。
 温泉地の本質とは何だろう。身体や心が傷ついて、ちょっとしばらく立ち直れないような人が、構われすぎず無視もされず、静かに回復を待つ場所、ということではないか。
 それは諸掘ではないか。「しょんぼり」だろうがなんだろうが、いや、「しょんぼり」ゆえに、諸掘は無二の温泉郷なのだと思う。温泉は未知数だが、実在するなら一度は行ってみたい気がしている。

*書誌情報*
☆通常版のみ…B6判(17.8 x 12.8cm)、全2巻。

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